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原題 Does Your Family Make You Smarter?-Nature, Nurture, and Human Autonomy
著者 James R. Flynn
分野 心理学/発達心理学
出版社 Cambridge University Press
出版日 2016/6/2
ISBN 978-1316604465
本文 人の認知能力は、遺伝子によって決まってしまうのか、それとも環境に左右されるものなのか、その中で家庭環境の影響はどれほど重要なのか……。従来、双子や養子を対象とした研究が一般的であった認知能力研究の分野に、IQの研究者として著名な著者は、IQスコアという分析要素を持ちこんだ。そして、「人間の認知能力は生まれながらに備わった遺伝子によってのみ決まる」という、一部の研究者の主張に真っ向から反論する。

著者の研究によれば、17歳頃までは認知能力の発達において家庭環境が正にも負にも影響する。そして、家庭環境の影響が弱まる18歳以降は、家庭環境よりも遺伝的性質に合った環境を求めるようになり、30歳前後までには家庭環境の影響は弱まるという。そして、認知能力の開発に年齢的な制限はなく、人間の自律的な取捨選択を通じて、自身の力で自分の認知能力を高めていくことができる、と主張している。

また本書の後半部分では、相反する結果が導きだされ、理論が乱立している知能研究の分野にも「メタ理論」のような上位概念が必要であると論じる。天文学の世界でも天動説か地動説かの議論をはじめとする理論の変遷を経て、理論の統合すなわちメタ理論の必要性が生じ、現在に至っている経緯を例に挙げ、知能研究の分野においてもその必要性を説いている。