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原題 Sport 2.0: Transforming Sports for a Digital World
著者 Andy Miah
分野 スポーツ競技/メディア
出版社 The MIT Press
出版日 2017/2/3
ISBN 978-0262035477
本文 デジタル技術の導入は、トレーニングの成果を数値化することで選手のパフォーマンスを向上させたり、判定にデジタル機器を導入することでミスジャッジを減らしたりといったことにとどまらず、あらゆる点においてスポーツに大きな影響を与えた。

サイバースペースでのスポーツ(E-スポーツ)の出現は、その最たる例だ。E-スポーツはオンラインで行われ、実際に競技を繰り広げるのは選手に操作される架空のキャラクター(あるいは架空の乗りもの)である。生身の選手が直接競技に参加するわけではないという点において、従来の感覚ではこれはゲームであり、スポーツとは解釈されなかっただろう。しかし、選手が動かすのは指先だけであったとしても、高度な戦略を駆使し、反射神経を極限までとぎすませて、コンマ何秒の操作を真剣に競い合うE-スポーツは、現在ではれっきとしたスポーツと見なされている。いまや、バーチャルリアリティの空間はすでに現実の一部なのだ。

さらに、デジタル技術はスポーツをやる側だけでなく、見る側にも大きな変化をもたらした。SNSを通じて観客は選手と直接やりとりをするようになり、観戦したゲームの結果に自らの感想をそえて拡散する市民ジャーナリストとしての機能も果たすようになった。以前のようにメディアが独占的に影響力をもつのではなく、個人がノードとして情報を中継し、ネットワーク全体が集合的な影響力をもつ状況となったのである。

デジタル技術はこれからのスポーツをさらにどのような方向に導くのだろうか? 今、「スポーツ」の定義自体が変わりつつある。