ブックレビュー ブックレビュー

原題 Ice: Nature and Culture
著者 Klaus Dodds
分野 歴史/自然
出版社 Reaktion Books
出版日 2018/6/1
ISBN 978-1780239057
本文 雪と氷の世界は、人類にとっての環境としては極限の状況である。しかし同時に、寒い冬の朝や冷蔵庫の中など、日常生活で体験することができる自然現象でもある。本書は、身近でありながら意外に知らない氷について、人文・社会・自然・芸術といった幅広い角度から考察を与える。

言うまでもなく、われわれを取り巻く山や湖、海岸などの地形に、氷は大きな影響を与えてきた。宇宙に視点を移せば、流星や惑星、衛星などにも氷は存在し、地球が水の惑星であるのは氷の小惑星によって水がもたらされたためだとする学者もいる。一方で、生命の存在すら許さない氷の世界に対し、人類は時に征服欲を掻き立てられ、時に詩的な想いを馳せてきた。氷というものは、われわれが自覚している以上に、物理的、精神的に遍在しているのだ。

氷河の氷と冷蔵庫の氷は同じか違うか? 極地で生き延びるために欠かせない3つの要素とは? といったことから、氷を利用したスポーツやレジャー、氷ビジネス、文学や芸術に表現された氷や、果ては「アナ雪」やポケモンにまで考察は及ぶ。人工雪を作ることに成功し、名著『雪』を書いた科学者、中谷宇吉郎や、女性として世界で初めてエベレストに登頂した田部井淳子の名も登場する。

美しいカラー写真も豊富に使用され、その遍在性をビジュアルイメージによって理解できることも本書の魅力である。