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原題 Voyage to Utopias: A Fictional Guide through Social Philosophy
著者 Tony Fitzpatrick
分野 社会科学/社会
出版社 Policy Press
出版日 2010/7/1
ISBN 978-1847420893
本文 私たちは日々の生活の中で、どれだけ自分たちの社会の成り立ちについて考えることがあるだろうか。民主主義、自由市場経済といった私たちの社会のルールはあまりに当たり前すぎて、そのルール自体に疑念を感じる人はほとんどいないのではないだろうか。しかしもちろん、今の社会政策は絶対不変のものではない。世界の歴史上、さまざまな社会政策が一世を風靡し、また廃れていった。本書は、それらの社会政策の概略、長所、短所をわかりやすく、小説の形で、一般読者に紹介する。

主人公である大学生ゼイディと弟のジェイクは、祖父のクランプスが発明した社会シミュレーションマシンによって奇妙な世界に連れ込まれる。それぞれの世界の成り立ちを端的にあらわすキーワードを見つければ、次の世界にワープできるというのだが、実際にクランプスが発明したのは社会シミュレーションマシンなどではなく……。

主人公たちの旅をファンタジスティックに描きながら社会政策を説明しようとしている点は、ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』を彷彿とさせるものがあるし、著者自身も前書きの中でその点を認めている。ゼイディたちがめぐる世界は、マルクス社会主義、保守主義等の社会政策を極端にデフォルメした世界であるため、その長所と問題点がわかりやすく浮き彫りになっている。本書を読むことで、自明のように思われていた社会政策が、実は人々が長い時間をかけて選択した結果なのだということがよくわかる。そして、将来また新たな社会理念が現れるのではないかという可能性にも思いをめぐらせるだろう。