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原題 Rejse i blåt: en roman om H.C. Andersen
著者 Stig Dalager
分野 文学/文化/歴史
出版社 People's Press(英語版:Peter Owen)
出版日 2004
ISBN 978-8791518539(英語版:978-0720612691)
本文 デンマークの代表的な童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの伝記的小説。死の床にあるアンデルセンが、モルヒネを投与される度に夢の世界に入り、貧しい靴屋の息子から世界的な有名人になるまでの自分の姿を振り返えっていく。

若きアンデルセンは、学校や下宿先で蔑まれ、虐げられ、いじめを受けていた。そんな逆境にありながらも、苦労の末に自分の作品を発表。しかし国内では酷評され、晩年までぞんざいな扱いを受けることになる。国外で認められ、文豪チャールズ・ディケンズに称賛されても、アンデルセンの心は満たされないまま、常に疎外感を抱き続けた。そして、過去の人生で負ったアンデルセンの苦しみは、死の縁まで続く。

アンデルセンは結果的には成功したが、人生の大半が不幸で孤独だった。夢想家で自己中心癖があり、躁鬱的に気分が急変するアンデルセンにはいらいらするが、若き日のその苦労には同情を禁じえず、また、その立ち直りの早さは笑いを誘う。

モルヒネで朦朧とする現実世界と、夢の中で回想される過去とが交錯し、読者を不思議な世界へ誘う。本書を読んだ後、アンデルセンが残した作品を読むと、その解釈も変わってくるに違いない。大人がじっくり読める本格的伝記小説。