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原題 L'animal est-il un philosophe?: Poussins kantiens et bonobos aristotéliciens
著者 Yves Christen
分野 動物学/哲学
出版社 Editions Odile Jacob
出版日 2013/3/7
ISBN 978-2738129369
本文 西洋の偉大な哲学者たちの考えの根底には常に人間中心主義があった。つまり、哲学する(=普遍性を求めて思考する)ことは人間にしかできないと考えられていた。しかし、著者はそのような定説に真っ向から立ち向かい、「動物も哲学している」と考えざるをえない数々の科学的実験結果を本書の中で紹介している。

それらの実験内容や結果が実に興味深い。公平性の認識を問う実験では、複数のサルに不平等な報酬を与える。仕事をしなくても良い報酬を貰えるサルと、仕事をしているのに悪い報酬しか貰えないサルが同空間に居た場合、後者は仕事をするのを渋ってしまう。自己認知を問う実験では顔にマーキングを施したチンパンジーやイルカやゾウなどに鏡を見せる。すると一様にそのマークに興味を示すのだ。

貴重なデータは、動物たちの本能的な認知能力を測るためのものではなく、メタ認知(知っていることを知っている)能力を証明することに成功している。本書を読み進めていくうちに動物たちの内にある深い思考に対し敬意を払わずにはいられなくなる。

人間の子供には「自我」といえるようになる前からそれが備わっているといわれているのに、なぜ動物にはないと言い切れるだろう? 本書は「動物には知性、良識、言葉などはない」という考えをもう一度問いただす良いきっかけとなる。