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原題 Terra Madre: Forging a New Global Network of Sustainable Food Communities
著者 Carlo Petrini
分野 暮らし/健康
出版社 Chelsea Green Publishing
出版日 2010/2/22
ISBN 978-1603582636
本文 1980年代に、郷土の食材や食文化を重視する「スローフード」に目覚めた著者。以来、インスタント食品やファストフードに象徴される社会の<ファスト化>に警鐘を鳴らし、スローフード運動を牽引してきた。今や運動は世界約150カ国に拡大。ファスト化の本山米国でも、有機農法やオーガニック・レストランが市民権を得つつある。本書は、著者のファストフードに対する反撃の集大成だ。

20世紀、機械化と大規模化の波が農林水産業界を席巻した。インスタント食品や食品添加物、遺伝子組み換え作物があっという間に普及し、消費者の舌を侵した。遺伝子組み換え技術や、農薬や種苗の供給を牛耳るアグリビジネスが流通ルートを支配し、品質にこだわる小規模生産者は存亡の危機に追い込まれた。味や安全は二の次で、価格とスピードと量がすべてになったのだ。

著者はこうした構造を再度整理しつつ、相反する動きとして、イタリア・トリノに何千人もの小規模生産者や料理人、消費者を集め、ネットワーク作りを促す祭典を紹介する。この祭典の狙いは、世界各地で地元の生産者から家庭や飲食店に新鮮な食材を届け、その土地ならではの食文化を育むことだ。これにより豊かになるのは食文化だけでない。小規模生産者にゆとりが生まれれば、地域の経済や文化も発展する。それも、欧米式のお仕着せでなく、その地の気候や習慣に沿った形で。

画一的な食卓、画一的な価値はもう要らない。本書で食のあり方を見つめ直してほしい。