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原題 Hands of My Father: A Hearing Boy, His Deaf Parents, and the Language of Love
著者 Myron Uhlberg
分野 自伝/回想録
出版社 Bantam Books
出版日 2009/2/3
ISBN 978-0553806885
本文 1930~40年代にニューヨークのブルックリンに暮らした、ある家族の物語。著者のマイロンが、耳の聞こえない両親と過ごした少年時代の思い出を穏やかでぬくもりのある筆致で綴る。

マイロン自身は聴者だが、第一言語として手話を獲得し、わずか5歳で両親の通訳をするようになる。一家は、ろう者への理解が乏しい時代に聴者中心の社会にあって何度も悔しさや怒りを味わうが、本書で描かれているのは「障害を乗り越えて前向きに生きるろう者」の姿ではない。本書は「自分の在り方(ろう)と自分の言語(手話)に誇りを持ち、息子たちに惜しみない愛情を注いだ父親とその家族の物語」である。

マイロン少年は、ろう者家庭の「聞こえる子供」として重い責任と複雑な気持ちを抱えながらも、働き者でユーモアあふれる父と、おおらかで快活な母の愛情をたっぷり受けて成長する。父の耳が聞こえないことを初めて理解した夜、父の職場訪問、読書との出会い、初恋、保護者面談でのインチキ通訳、父との初めての野球観戦。生き生きと語られるたくさんの色鮮やかな思い出を通して、読者は美しく表情豊かな手話の魅力に触れ、ろう者の生活や文化を垣間見ることができる。

本書では、ろう者を障害者としてではなく、手話という独自の言語を用い、ろう文化という独自の文化を持つ人々として捉えている。つまり、マイロンは手話と音声言語のバイリンガルで、ろう文化と聴文化という二つの文化的背景を持っているというわけだ。ろう文化や手話について知りたい人にはもちろんだが、言語や異文化交流、コミュニケーションに関心のある人にとっても非常に興味深く、楽しめる内容となっている。