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原題 삶의 속도, 행복의 방향:삶의 속도를 선택한 사람들(人生の速度、幸福の方向:人生の速度を選択した人々)
著者 김남희(キム・ナミ)、辻信一
分野 エッセイ
出版社 문학동네(文学トンネ)
出版日 2013/4/8
ISBN 978-8954621069
本文 韓国の旅行家キム・ナミと、日本の文化人類学者、辻信一。東アジアの平和と環境問題を考える日韓共同NGOによるイベント「ピースアンドグリーンボート」の船上で出会ったふたりが、1年をかけてブータン、韓国、日本を巡る旅に出た。本書は、旅先で触れた自然や文化、出会った人々について、ふたりがそれぞれの視線でそれぞれの思いを描いたエッセイだ。

ふたりは、社会的弱者や先住民族、経済的困難を抱えた人々などを取り巻く厳しい現状を説く一方で、彼らが決して不幸ではなく、むしろ、彼らなりの幸せを手にしていることに注目する。

貧富の差が激しく、物質的、経済的にも決して豊かとはいえない国、ブータン。しかし、ブータン国民の幸福指数は高い。電気も道路もない貧しい村で、文明の利器とは縁がない代わりに、せわしなさとも無縁の、ゆったりと流れる時の中で生きる人々。彼らにとって、体を動かし働くことは、生きることそのものだ。働くことを楽しみ、生活を、生きることを楽しむ人々の国、ブータンを旅しながら、ふたりの著者は幸せの本当の意味を考え始める。

韓国では、エリートコースから抜け出し、済州島で新たな生き方を模索する夫婦に出会い、日本ではアイヌ民族と彼らの文化を知り、化学肥料や農薬を使わないのはもちろん、雑草も除去せず自然のまま農作物を栽培する自然農に触れる。

本当の「幸せ」とは何なのか。本書を読めば、その定義が変わるかもしれない。