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原題 Tsunami: Nature and Culture
著者 Richard Hamblyn
分野 ポピュラーサイエンス/地球科学
出版社 Reaktion Books
出版日 2014/12/15
ISBN 978-1780233475
本文 東日本大震災で目の当たりにした津波の猛威に、私たち日本人は打ちのめされた。だが、あれから5年を経て、当時の衝撃が薄れつつあることは否定できない。本書は、そんな「忘却症」に冷や水を浴びせる。「津波による破壊→その記憶と犠牲を無駄にはしないという誓い→懸命の努力による復興→記憶の風化→悲劇の再来」というルーティンを、人類は古代から何度となく繰り返してきたのだ。その事実を、世界中に残されている津波の記録や伝承などをもとに解き明かしていく。

紀元前5世紀のギリシャの歴史家ヘロドトスは、ギリシャに攻め入ろうとしたペルシャ兵数百人が巨大な波にのまれたと記したが、これが津波であった可能性はきわめて高いという。大波の原因について、ヘロドトスは「ペルシャ人が海神ポセイドンの神殿を侵したために、その怒りをかった」と説明しているが、これは「海底地震」のメタファーだったのではないか……。つまり、この時代からすでに、地震と津波を結びつける発想は生まれており、この記述は後世の人々への警告だったかもしれないのだ。

このように、津波の予兆を示唆するような神話や昔話は枚挙に暇がないが、それらの大半は「単なる言い伝え」とされ、顧みられることがなかった。一方、人々が言い伝えを守ったために、命を失わずにすんだ例もある。岩手県の姉吉地区の、海抜約60メートルの地点建てられた有名な石碑には、「ここより下に家を建てるな」と刻まれている。この地区は、東日本大震災の津波で1軒の被害も出さなかった。

本書は、結局私たちにできる最善の津波対策は「忘れないこと」だと思い出させてくれる。