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TranNet通信 誌面サンプル-------CONTENTS--------------------------------------------- 【1】事務局便り/催事案内 ※ 【2】連載「編集長の目」(137) 原山 建郎(元主婦の友社編集長) “英語より「論語」を”論争から、日本人の「漢字理解力」を問う 【2】オーディション入賞者の声 ※※ ■■ 編集人後記 ■■ ------------------------------------------------------------ 【1】事務局便り/催事案内 ※当コーナーでは、 事務局から会員の皆様への重要なお知らせは もちろん、講座のご案内、小社が手がけた翻訳書の新刊情報、 スタッフが綴る翻訳の舞台裏コラム、イベントのご案内、 海外のブックフェアレポートなどの情報をお届けしております。 ------------------------------------------------------------ 【2】連載「編集長の目」(137) 原山 建郎(元主婦の友社編集長) “英語より「論語」を”論争から、日本人の「漢字理解力」を問う 昨夏、ユニクロと楽天が、英語の社内公用語化を決めたというニュースが 話題になった。 2012年から社内の公用語を英語とするユニクロは、幹部会議や社内文書は 基本的に英語とする、社員にはTOEIC700点以上の取得を求め、店長以上は 研修を受けさせるという。 楽天の三木谷浩史会長兼社長は中間決算の発表を英語で行い、その後の記 者会見も英語による質疑応答となった。三木谷さんは英語を公用語にする理 由を、「英語はストレートに表現するが、日本語だと曖昧になる。英語のほ うが仕事の効率が上がる」と述べている。日本人同士の意思疎通で混乱はな いかとの質問には、「英語をしゃべらないといけない環境を作っている。 1、2年後には全社員が流暢な英語が話せるようになる」と答えている。 『ローマ人の物語』などでおなじみの作家・塩野七海さんは、すでに半世 紀近くローマで暮らし、普段はイタリア語一色の生活を過ごしている。歴史 書を読むのは外国語で、書くのは日本語という塩野さんが、『文藝春秋』の 連載エッセイ「最近笑えた話」のなかで、楽天とユニクロが「英語」を社内 公用語化した話題にふれて、次のように書いている。 *===============================================================* 楽天とユニクロという日本では誰でも知っている会社が、日本の中でも社 内では英語オンリーと決めたと知ったときは、御冗談でしょうと一笑に付し たものだった。ところがどうやら本気らしく、それに対して起った賛否両論 も、お笑いではなくてまじめに成されているようである。 しかしこの問題は、言い出したほうもそれに賛否で応じたほうも、二つの こと、つまり、外国語漬けの日々を過ごしている日本人の精神状態と、想像 力がより発揮されるのは、外国語の場合か、それとも母国語か、ということ への配慮が欠けているように思う。 (『文藝春秋』2010年11月号、「最近笑えた話」) *===============================================================* また、『街場のメディア論』などの著書がある神戸女子学院大学教授の内 田樹さんは、自らのブログのなかで、日本企業の英語公用語化について、次 のように書いている。 *===============================================================* ユニクロの柳井正会長兼社長は「日本の会社が世界企業として生き残るた め」と語っている。海外で業務ができる最低限の基準として、TOEIC700点 以上の取得を求めるのだそうである。 こんな時代にサラリーマンをしていなくてよかったなあ、と心底思う。 英語が公用語という環境では、「仕事はできるが英語はできない」という 人間よりも「仕事はできないが英語ができる」という人間が高い格付けを得 ることになる。 (内田樹の研究室:2010年6月24日) *===============================================================* 内田さんはさらに、英語が公用語になったある学部の実例を紹介している。 その学部では、ネイティブスピーカーが「知的序列」の最上位にきて、次い で帰国子女、最後に日本で英語を学んだ人がくる。そして、最後のグループ に属する日本人教師が、訥々とした英語で話しても、ネイティブが滑らかな 英語で「あなたは間違っている」というと、クラス全体がネイティブに理あ りという雰囲気になってしまう。ここでは「英語運用能力」と「知的ランキン グ」がシンクロしているので、授業運営が困難になっているという。 塩野さんは「最近笑えた話」のなかで、歴史上の人物を小説に書くとき、 より「想像力」を発揮するには、母国語を用いた想像力によって「見る」こと が重要だと書いている。 *===============================================================* 人間の能力の中でもあらゆる仕事にとって最も重要と思う「想像力」が、 外国語と母国語で成された場合のちがいの有無について見てみたい。 これも材料を私自身にするが、私の仕事にとっての想像力の重要度は計り 知れない。なにしろとりあげる歴史上の人物を読者に見てもらわなければ話 にならないのだが、それにはまず、書く私が見る必要がある。それで、「見 る」ためにはどうするかだが、ここで母国語が威力を発揮してくる。(※こ のあと、塩野さんがユリウス・カエサルやリチャード獅子心王に日本語で話 しかけて、主人公の心情を想像する方法が紹介されている) カエサルは古代のローマ人だから話しかけるのもラテン語でリチャードは 中世のイギリス人だから英語でないと、などと言い始めると、もはや黙るし かなくなる。ラテン語や英語に訳したらどうなるか、と考えるや、想像力は たちまちしぼんでしまう。 (「最近笑えた話」) *===============================================================* 『文藝春秋』2011年新春特別号に、“英語より「論語」を”と題する対談 が載っていた。サブタイトルには「英語の公用語化で企業はつぶれる。日本 人が依るべきは、中国の古典にあり」とある。対談者は、『国家の品格』な どエッセイストにして数学者の藤原正彦さんと、『孟嘗君』など中国の歴史 に題材をとった小説で知られる作家の宮城谷昌光さんである。 若いころ、イギリスやアメリカに住んだ経験のある藤原さんと、大学は英 文科出身である宮城谷さんの対談だったが、やはり『論語』に関する発言に 興味を引かれた。 *===============================================================* 藤原 中国では『論語』は官僚の登用試験である科挙に出るくらいで、庶 民は読んでいなかったと聞きます。ところが日本では寺子屋や藩校で四書五 経を読ませ、武士だけでなく町民、庶民にも教えてきた。中国文学や儒教文 化も、生まれは中国ですが、そちらでは忘れられ、すっかり日本文化になっ てしまった感があります。 宮城谷 現代中国には、孔子を知らない人も大勢います。日本に住んでい る留学生に会った時に、「夏王朝から始まり、中華人民共和国に至る長い歴 史の中でどの王朝がすきですか?」と尋ねると、「今が一番いいです。過去 の時代は全部嫌いです」といわれましたね(笑)。私の本を読んで「孔子っ てそんなに偉かったんですか」と言った中国人もいたくらいです。 (『文藝春秋』2011年新春特別号、“英語より「論語」を”) *===============================================================* また、江戸時代から明治初期にかけて漢籍を学んだ人が素養のある人とし て尊敬されたこと、幼いころから意味はわからなくとも素読をさせられたこ となども紹介されている。 *===============================================================* 藤原 昔の武士の家では、小さな頃から素読は必ずやらされていました。 私の父(作家・新田次郎)も、寒い冬の日も裸足で廊下に座らされ、江戸時 代の末に生まれた父の祖父に、訳のわからない本を読まされていたそうです。 後になるとそれが素晴らしくよかったと、私に話してくれました。(中略) 宮城谷 私も中国の古典や古代に踏み込んで小説を書こうとした時に、漢 文の素読を昔やっておけばよかったと感じることがあります。素読というと、 まず、「学而第一。学びて時にこれを習う」で始まる『論語』と言われます。 ところがこれは四十代くらいになってようやく、なるほどと腑に落ちるよう な内容で、子どもの時は何を言っているのかとてもわからない。 (“英語より「論語」を”) *===============================================================* 素読で最初に読むことになる『論語』学而第一は、次のような一節から始 まる。 ●原文 子曰、學而時習之、不亦説乎 ●訓読文 学んで時に之を習ふ、亦説(悦)ばしからずや。 これを日本語にそのまま直訳すれば「孔子が言われるには、聖賢の道を学び、 時々復習する。それは誠に喜ばしいことだ」となる。これを意訳すれば、 「勉強した当座はよくわかったつもりでいるが、実はそれが浅い理解である ことが多い」となる。どちらの日本語訳も、これではいったい何を学ぶべき か、どこに問題点があるのか、そこがよくわからない。 それでは、これを英訳するとどうなるか。 The Master “Is it not pleasant to learn with a constant perseverance and application? ”あるいはConfucius said, “To learn and to review those you learned are pleasure.”とでもなる のだろうが、これでは『論語』が伝えたい真意は伝わりそうにない。 また、『論語』為政第二にも「学而(学んで)」という漢字が出てくる。 ●原文 学而不思則罔、思而不学則殆 ●訓読文 学びて思わざれば則ち罔(くら)く、思いて学ばざれば則ち殆 (あやう)し。 この標準的な英訳は、Study without reflection is a waste of time; reflection without study is dangerous.となるが、漢字のニュアンスを 「罔(くら)し=a waste of time」「殆(あやう)し=is dangerous」と したのでは、『論語』の微妙なニュアンスは伝わりにくい。 あえて、誤解を恐れずに言えば、すでに漢籍の素養をもたない現代人の日 本語(漢字理解)力では、『論語』の漢文を棒読みすることはできても、漢 字という表意文字の奥に隠された「孔子の真意」を読み取ることはできない。 今回、“英語より「論語」を”に注目したのは、もちろん「英語を学ぶよ り、中国の古典を素読せよ」を勧めるのではなく、『論語』をイマジネーシ ョンで読み取る「漢字理解力」こそが、私たち日本人が失いかけている、最 も大切な「語学力」だと思ったからである。 次回は、『身体感覚で「論語」を読みなおす』(安田登著、春秋社)を取 り上げてみたい。 ------------------------------------------------------------ 【2】オーディション入賞者の声 ※※連載「編集長の目」との交互掲載で、トランネットのオーディションから 出版デビューされた会員の方々のコラムをご紹介しています。訳者として 手がけられた書籍・出版社も併せてご紹介しております。 翻訳を志したきっかけやデビューまでのプロセス、実際にお仕事 する上でのポイントなど、デビューを目指してチャレンジを続け る皆様に大変ご好評いただいているコーナーです。 == ■■ 編集人後記 ■■ ================================== 筍(たけのこ)という字は、見るたびに旬(しゅん)に似ている と思います。まさに今が旬の筍。皮ごと糠で煮たら、冷まして皮を むいて水につける……というひと手間さえかければ、その先には喜び が待っています。1本で筍ご飯、土佐煮と2回分は楽しめます。 そして、この時期はずせないのが初鰹。もちろん、たたきにして いただきます。旬の食材は、食卓に季節感を届けてくれるだけでなく 体にはパワーを、心には安定を運んでくれます。これこそ身土不二、 スローフードなのではないでしょうか。 ------------------------------------------------------------