Bologna Children's Book Fair(ボローニャ児童図書展) は1964年から継続して毎年開催されている児童書専門の国際見本市。商取引の場として、各国の出版社や版権エージェントが出展しており、今年も約1000社が参加した。期間中の来場者は1万名を超え、版権の売買のほか、イラストレーターが直接出版社に売り込みを行なう場でもある。
同時開催のIllustrator's Exhibition(ボローニャ国際絵本原画展)は、国際絵本原画のコンクールで、入場口すぐの会場に入選作品が展示されている。2006年度は59カ国から2544点の作品が寄せられ、日本人27名を含む92名が入選。その他、同じフロアでは招待作家、イランのアリ・レザ・ゴルドウジャンの特別展と、招待国ハンガリーの絵本原画展が来場者を迎えていた。


  * エントランス                * 原画展                     * ハンガリー絵本原画展
 
■会場風景

原画展や、色とりどりの絵本に囲まれているからだろうか、商取引の場ながら、全体的にどこかゆったり、ほのぼのとした雰囲気がある。出展は大まかな地域別で7つの会場に分かれ、それぞれの特色が出ていて興味深い。足を止めてくれた人に、イランのブースではピスタチオ、台湾のブースではお茶をふるまっていた。
   
場内を散策すれば有名なキャラクターの着ぐるみがひょっこり出てくるし、ブースの飾りつけにも色々工夫が凝らしてあって、にぎやかで楽しい。編集者のいるブースには作品を見せるイラストレーターの長蛇の列ができて、真剣な表情やときおり混ざる笑い声など、無数の可能性があちこちで進行していることが肌で感じられる。売り込み中のイラストレーターの一人に話を聞いてみた。
「イギリス、アメリカ、イタリア、フランス、韓国、日本などいくつかの出版社を回ってみたが、ひとつの作品に対する反応は出版社によって様々。ヨーロッパの出版社では、抽象的で大胆な絵柄より、具象的で細かい部分までしっかり描きこまれた絵柄が好まれる傾向へと移りつつあるのでは」、と語っていた。


    
                                                Meeting Point  イラストレーターが自分の連絡先を書いて貼り付けている。

出展国の割合は開催国のイタリアを筆頭に欧米が圧倒的だが、アジアや南米、東欧諸国などの出展も目立った。台湾、韓国、チェコ共和国などは、共同で大掛かりなブースを出し、英語のカタログや案内もわかりやすい。日本からは36社が出展していたが、一部を除いて、ブースの構えは全体的にあっさりした印象を受けた。その光景と比べて、ヨーロッパやアメリカのブースで日本のアニメキャラクターがひときわ大きくディスプレイされているのは不思議な眺めに思えた。         * 新風舎ブース
いくつかの国の担当者に自国の児童書マーケットについて尋ねてみたところ、状況は厳しい、という意見がほとんどだった。原因として子供の本離れや少子化を指摘していたが、イタリアの担当者は、移民の増加によるマーケットの拡大がある、とも語っていた。中東諸国、アフリカ、南米や東欧諸国の担当者からは、これから児童書の需要が増すだろうという意見も聞かれた。特にイランでは最近様々な絵本コンクールに入賞する優秀な作家が育っていて、児童書の見通しは明るいそうだ。

                            

■セミナー

・International Trends Roundtable:
 Developing Markets through Reading Promotion ? How to Benefit Best

テレビ、ゲーム、インターネットと、新しいメディアが席巻する時代に、子供の本離れはどの国でも深刻だ。子供のころに読書体験のない大人が、本を買うはずもない。読者の獲得は出版社にとって至上命題だが、その地盤は年々脆弱になっている。本の魅力を次の世代の子供達に伝えるのは、児童書ジャンルのみならず出版界全体の問題と言えるだろう。このセミナーでは、特に子供の読者獲得のための各国出版社の取り組みが発表された。

イギリスのブックスタート(新生児が誕生した両親に、無料で絵本を贈る。自治体の87%が実施、ここ数年、日本や韓国など各国に拡がりつつある)は有名だが、大手出版社Scholastic(UK)のScholastic Book Fairも成功例のひとつ。各出版社に呼びかけて約40社から無料で書籍を提供してもらい、毎回100冊ほどを特設棚にディスプレイして一定期間、学校に設置する。「校内本屋さん」といったところで、両親にも告知し、親子で好きな本を手にとって探せる。さらに、子供が自分の意思で買えるよう本の値段も低く設定してある。イギリスの学校、約90%が参加、フェアの運営は教師が中心となって両親のボランティアを募り、売り上げの60%は学校側に手数料として支払われるシステムだ。この活動による出版社の利益は? という参加者からの質問に対しては「読者が増えて自社の本が売れるようになる」と明解な返答が帰ってきた。同時にScholastic Book Fairのみでも、かなりの利益をあげることに成功している。

・Conference: Beyond Boundaries
 Translating Cultural Difference in Children’s Books

期間中、会場にTranslators Centerが設置され、連日、児童書の翻訳についてワークショップや講演が行なわれた。特に、児童書における翻訳の具体的な問題について、イタリア語とフランス語間の実例をあげての検討は興味深かった。例えば、ある翻訳ではイタリア語原文の『パルミジャーノ・レッジャーノ』がフランス版では単に『フロマージュ』になってしまった(「では『カマンベール』とか? まさか! 」と同席していたフランスの翻訳者から声が上がった)。食べ物にまつわるイメージを翻訳で伝えるのは難しい。特に対象読者が子供の場合、人名・地名の表記や、通貨や学校システムなど、文化的背景の違いをどう翻訳するかは作品の本質にかかわっている場合が多い。アプローチの起点をどこに設定するか、つまり対象読者と原書のどちらに寄り添うべきなのか、という選択において翻訳者はもちろんだが出版社の役割も見逃せない。子供のための翻訳において、大人の意図的な操作が行なわれていないか、慎重な検討が必要、と発表を締めくくった。

■まとめ

「世界で唯一の児童書専門ブックフェア」には、「世界の子供たち」それぞれの現状が浮かび上がっていた。本を読まない子供を嘆く国々と、本を読みたい子供が大勢いながら、ままならない国々。難しい状況だ。 しかし、印象的だったのは、各国の担当者やセミナー発表者、イラストレーターの言葉の多くに感じられた、前向きな「伝える意志」だ。もちろん、国や会社、個人、それぞれの立場により、子供に対する視点や考え方は違う。別々の起点から、何かを子供の手に「届けたい」という一点へと向かう、たくさんの意志の流れが確実に存在していたと思う。
 現在の状況は一朝一夕に解決する問題ではないにせよ、各国の出版関係者の情報交換や商取引の活性化、具体的な取り組みの積み重ねから、子供と本の新しい関係の実現につながるだろうと期待している。

  <<取材・インタビュー>> TranNet 出版企画開発部 前川夕海子


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