パブリッシング・ユニバーシティ 2008
May 27 - 29, 2008
Los Angels, CA.,U.S.A

The 2008 Publishing University


Publishing University text 今年も、5月29日からの4日間、アメリカ最大の図書展示会ブックエキスポアメリカ2008(以下、BEA)が、ロサンゼルスのコンベンション・センターで開催されました。 また、このBEAに先立ち、Independent Book Publishers Association 主催の出版セミ ナーが、ロサンゼルスのウィルシャー・グランドホテルで開催され、私どもジャパ ニーズ・ライターズハウスも参加してまいりました。本来ならばBEAの状況をお伝え するところですが、今回出席した出版セミナーの内容が、あまりにも刺激的かつ驚きの連続だったので、まずはそこで感じたことをお伝えしたいと思います。 なにしろ3日間、朝から晩まで70以上のテーマ別に設定されたクラスそれぞれで出 版エキスパートが、いかに出版ビジネスで成功するかを伝授する、という内容でしたので、全てはお伝えできませんが、筆者が感じたことをいくつかご紹介いたします。

Publishing University orientation まずは初日の説明会で、アメリカの出版市場の概略が説明されました。現在、年間の 新刊点数が約29万点(日本は約8万点)、書店数約1万2000店(うち2000は大型チェーン店)という膨大な市場です。大手出版社といえども出版不況の煽りを受け、足元が揺らいでいる昨今ですが、一方では中小出版社の全体に占める売上は徐々に伸びてきているようです。中小出版社が生き残るためには、自らのしっかりしたビジョンを持ち、ユニークな方策をとらなければ生き残れない時代であるという認識のもと、出版計画の策定からディストリビューターの選定、法務の基礎知識など、出版活動の基本を丁寧に解説してゆくとのことでした。

説明会後は様々なクラスに参加しましたが、とりわけ、本のマーケティングやプロ モーション手法についてはかなり進んでいるなという印象を持ちました。 アメリカでも出版不況の中、本の売り方が激変して、インターネットを駆使 した、効率的で安価なマーケティングやプロモーション手法が急速に進化してきて います。日本でもよく知られる、世界最大のソーシャルネットワーキングサイト、 MySpace や、最近急速に人気が高まっているFacebook、あるいは動画を視聴できるYouTube を使ったプロモーションはもちろん、インターネット上で行うオンライン・オーサーツアーといったユニークなプロモーションが会場で注目を集めていました。

Publishing University time table このオンライン・オーサーツアーを主催する出版コンサルタントは、クライアント (著者または出版社)のマーケットをほとんどゼロの状態から開拓し、潜在的な読者 や支援者を探しだす天才的な嗅覚の持ち主です。バーチャルなインターネットの世界 であっという間に著者のファンや読者を山ほど築いてしまうのですから、会場では質 問攻めに会い、大人気でした。その手法は、著者と作品を、例えば一週間限定で、ブロ グやメッセージボード、関連サイトに可能な限り露出し、質問者との やりとりも直接著者に任せ、潜在的な読者を獲得していこうというもの。
同時に、有力ブロガーやジャーナリスト、関連分野のエキスパートをネット上で調べ 上げ、連絡先がわからなければ探偵ばりの調査を行い、かなりの確率で連絡先を探し 出します。多くの読者を持つ人気ブロガーやジャーナリストらと著者をオンライン上 で短期集中的に交流させることにより、一気にネット上での露出度を高めます。 ちなみにアメリカには分野ごとのエキスパートを探すためのポータルサイトが数多く 存在しますが、中でもExpertClick.comなどが代表的です。
著者と人気ブロガーたちとの交流がネット上に流れ、タイミングが上手く噛み合えば、 前述の、著者が直接交流した潜在的な読者たちをファンとして一気に獲得でき、 さらにオンライン上で口コミが爆発的に広がります。この手法で驚異的な売上げにつな がった作品は数知れず、それまで無名であったのに、ラジオやテレビから出演依頼 が押し寄せ、一気に有名になった著者もいます。

Wilshire Grand Hotel 別のクラスでは、ラジオやテレビ出演を前提とした、著者に対するメディア・トレーニングなるものの必要性を徹底して謳い上げていました。日本でも最近こそ著者のメディアへの露出も増えてはいますが、普通はコツコツと作品完成に専念し、あとは出版社任せ というケースがまだ多数派だと思います。アメリカでは様相が異なります。 作品を仕上げた後、著者は本を世に拡めるための「スピーカー」に変身するのですが、 その手助けをする専門のトレーナーが数多く存在します。
そしてトレーナーは、テレビやラジオなど、メディアごとに戦略を立て、著者に アドヴァイスします。ラジオ出演ならば、どの局はどういったリスナーがメインで、 年齢層から性別、どのような好みを持っているのか分析し、リスナーが読んでいそうな 雑誌に一通り目を通しておくとか、自分の作品のどんなところがリスナーの心に響くかを徹底して分析します。さらに、テレビやラジオといったメディア の特性を踏まえて、20秒以内にリスナーの心をつかむことを重要視し、そのための「ショッキング・エレメント」と「個人的エピソード」を盛り込み、 さらに簡潔に(これが大事)伝えるトレーニングを繰り返します。クラスの中で、 実際のラジオのホストと即興のリハーサルをした著者が、その場で何度もダメ出しを食らうなど、ほとんど演技指導に近い内容でしたが、何度か繰り返すうちに観客にメッセージが伝わるようになりました。日本人だと気後れしてしまいそうなシーンですが、メディア大国アメリカではどんどん前に出てメッセージを広めていく気概を持たなければ、いくらよい作品をものしたとしても、 すぐに埋もれてしまいそうです。こうして「スピーカー」から「エデュテイナー(エデュケーション+エンターテイナー)」に成長した著者は、 カリスマ性を身につけ、さらに多くの支持者を獲得していくのだそうです。

さて、私たちジャパニーズ・ライターズハウスの著者が、アメリカを含めて海外のメ ディアに呼ばれる機会も増えてきそうです。過去には田口ランディ氏がイタリアでのプ ロモーションツアーに招待され、多くのメディアに登場し、読者に認知されました。 今後は英語で話せる著者を求むという声もアメリカの関係者からいただいております。 そういった場合にどう対応していくか課題も残りますが、秘策も考えていますのでご期待下さい。
著者のメディアでの過剰な露出には賛否両論があると思いますが、日本でもアメリカでも 従来型の出版手法が行き詰まりを見せる中、著者も出版社も、出版コンテンツの見せ方、売り方の変化を見据えて、メッセージ発信法を変えていかなければ世の趨勢に 取り残されるのではないか、と強く感じた出版セミナーでした。

(近)


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