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原題 The Golden Passport
著者 Duff McDonald
ページ数 672
分野 経済、経営、ビジネス、歴史、文化
出版社 Harper Business
出版日 2017/04/25
ISBN 978-0062347176
本文  ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)と言えば世界でももっとも傑出した、最大のビジネススクールの一つだ。その卒業生は人生の進路を約束され、さらに彼らが働く組織や経済そのものの針路にまで影響を与えている。ハーハード大学は人々の心の中にゆるぎないイメージを刻み込んでいるが、そのハーバード大学からあまり歓迎されずに生まれた子どもであるHBSは、社会に対する影響力という点ではかなり前に生みの親を上回ってしまった。そこで起きたこと(カリキュラムや学生の進路選択や社会への適応のし方の変化)はアメリカ経済だけでなく、世界的にもバタフライ効果を及ぼしている。
 1890年代、ビジネスは隆盛を極めアメリカでもヨーロッパでもその分野の専門家を養成する必要性が叫ばれていた。しかし、一方ではビジネスが単なる金儲けの手段であって、高等教育機関で教える学問としてはそぐわないという声もまた高かった。そうした逆風を受けながらもHBSの創立に奔走したチャールズ・エリオットやアボット・ローレンス・ローウェル、指導の方向付けを決定した初代学長、エドウィン・ゲイをはじめ、本書の前半はこのビジネススクールの発足と発展に寄与した人物たちの話が中心である。また斬新な教授法として導入されたケース・メソッドについてもページが割かれている。さらに、特定のテーマ(リーダーシップ、アントレプレナーシップ、倫理観)について論じたページや10年ごとに総括された章もあり、この経営大学院の1世紀にわたる歴史や功績を俯瞰することができる。
 しかし筆者の筆はそこにとどまらない。例えばHBSの代名詞ともいえるケース・メソッドについては問題解決能力の育成方法から単なる金儲けの手段になってしまったと論じている。学校の将来についても楽観はしていない。HBSの課題は学校だけでなく社会全体が抱えている課題と直結していると指摘している。その点で本書はある伝統的なビジネススクールを通じて、社会に警鐘を鳴らしていると言える。