ブックレビュー
| 原題 | Comics at the Movies |
|---|---|
| 著者 | James Chapman (Author) |
| ページ数 | 440 |
| 分野 | 映画、歴史 |
| 出版社 | Reaktion Books |
| 出版日 | 2026/07/27 |
| ISBN | 978-1836391739 |
| 本文 | 1936年、大恐慌の影響が残るアメリカで、『フラッシュ・ゴードン』は実写の連続活劇として映像化された。宇宙を舞台にした勧善懲悪の物語、悪の帝王との対決、ヒロインを救うために戦う主人公―そうした要素は、のちのスーパーヒーロー映画にも通じる魅力をすでに備えていた。当時の観客が、新聞連載やラジオシリーズを通じて、こうしたキャラクターに親しみ始めていた時期でもある。著者は、こうした複数のメディアを横断する展開を、当時の興行戦略として描き出し、今日のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が展開するトランスメディア戦略の遠い先駆けとして読み解いている。本書は、そうしたコミック映画の長く豊かな歴史をたどる一冊である。 著者は、レスター大学に映画学を研究領域として確立し、映画史・大衆文化史研究を牽引してきた。ジェームズ・ボンド映画論や英国コミック文化史など、映画産業史とコミック研究の両分野で実績を積んできた著者にとって、本書はその2つの専門領域が結実した集大成といえる。 本書は、コミック原作映画の歩みを4つの時代に分けて描き出す。大恐慌と戦争の時代に連続活劇が量産された「クラシック期」、テレビ版『バットマン』が「キャンプ」の美学を確立した1960年代、1978年版『スーパーマン』の革命的成功からティム・バートン版『バットマン』、そして90年代の試行錯誤に至る「ブロックバスター期」、ノーランのダークナイト三部作からMCU・DCユニバースによる巨大フランチャイズの時代に至る現代の「フランチャイズ期」。約90年にわたるこの歩みを、著者は一本の太い歴史として描き出す。 本書の魅力は、単なるヒーロー映画ガイドにとどまらない点にある。『ハワード・ザ・ダック』や『ディック・トレイシー』、『ポパイ』など、成功作から失敗作、さらには忘れられた作品まで幅広く取り上げ、著者はさらに1章を割き、自作の映画化に批判的な姿勢を貫いてきたアラン・ムーアの作品世界、そしてコミックを映画に移し替えることの是非を論じる。映画産業の変化、時代ごとの政治や社会意識、人種やジェンダーの表象、大衆文化とメディアの関係を、これら多様な作品群を通して読み解いていく。 コミック映画はいかにしてハリウッドの中心へと上り詰めたのか。本書はその軌跡をたどると同時に、20世紀から21世紀にかけての大衆文化史そのものを描き出す。マーティン・スコセッシによる「スーパーヒーロー映画は映画ではない」という発言への学術的応答でもあると同時に、映画ファンにも開かれた語り口で書かれている点も大きな特色である。 |