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原題 Classical Music in a Changing Culture: Essays from The American Record Guide
著者 Donald Vroon
分野 文化/クラシック音楽
出版社 Rowman & Littlefield Publishers
出版日 2014/7/2
ISBN 978-1442234543
本文 1960年代には20%あったといわれるクラシック音楽人口は、今や2%にまで下落。楽団は経営難に苦しみ、音楽専門誌とて状況は同じだ。その大きな原因は、現代アメリカ人のクラシック音楽に対する誤った認識、教育の質の低下にある。そもそもクラシック音楽の鑑賞には知性や根気が必要で、テレビのような享楽的で受動的な娯楽と並べて論じること自体が間違いだ。また、クラシックはエリートのための音楽だ。まっとうな教育を受けていない人間に、クラシックを理解することはできない。それゆえ、エンターテイメント性ばかりを追求したり、大衆におもねるような宣伝をするのは避けるべきだ。

聴衆に印象付けようと斬新さを追い求めるあまり、奇をてらった演奏に心を砕く演奏者も、音楽の本道から逸れている。また、無調音楽や、欲望や怒りの感情を煽るロックには、ポジティブな感情を高めるという音楽の本質が備わっていない。音楽は宗教と同じで、古くても本質が備わっていることが大切なのであり、新しいものは必要ない。

クラシック音楽専門誌『American Record Guide』の編集に長年携わってきた著者が、過去25年間に同誌のオピニオンスペース「Critical Convictions」に掲載されたエッセイの中から38篇を選り抜いてまとめた一冊。移り変わる時代の中で音楽もまた変容するものとしながらも、古く伝統あるものを過少評価し、ないがしろにする現代の風潮に警鐘を鳴らす。クラシック音楽を皮切りとし、社会や教育、文化の在り方にも一考を投じている。