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原題 My Brain Made Me Do It: The Rise of Neuroscience and the Threat to Moral Responsibility
著者 Eliezer J. Sternberg
ページ数 244ページ
分野 倫理/哲学
出版社 Prometheus Books
出版日 2010/3/23
ISBN 978-1616141653
本文 科学者が最新の技術で脳の働きを解明していくにつれ、従来考えられてきた「人間」という存在は大きく変わることになりそうだ。これまでの神経科学の発展で、すでに疑問視されている人間性の1つが「自由意志」である。私たち人間の決断は機械的に決定されるものなのか。自制心は脳が作り出した単なる幻想なのか。そうであれば、自由意志と道徳的責任とはいったい何なのか。

こうした一筋縄ではいかない問題に、神経科学が道徳的責任にもたらす影響という側面から取り組んだのが本書である。取り上げるのは、科学者が意志の働きと関係があると考える脳の部位、パーキンソン病・トゥーレット症候群・統合失調症に見る自制心、脳内の化学物質が犯罪行為に与える影響、内省と脳の働きとの関わりなど。哲学・伝承・歴史・犯罪学・科学実験から例をとり、「人間は自らの行動をコントロールできるのか」という問いの答えを探っていく。

非常に専門的な内容にもかかわらず、各章冒頭の興味深いエピソードや簡潔な語りで、決して一般読者を飽きさせない。英国BBCの月刊科学雑誌『Focus』は「科学と哲学の接点を模索する傑作」と絶賛。