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原題 Basic Income: A Radical Proposal for a Free Society and a Sane Economy
著者 Phillipe Van Parijs, Yannick Vanderborght
分野 政治経済/社会
出版社 Harvard University Press
出版日 2017/3/20
ISBN 978-0674052284
本文 ベーシックインカムとは、就労や資産の有無にかかわらず、生活に最低限必要な所得をすべての個人に対して無条件に給付するという社会政策の構想である。働いているかどうかに関係なくすべての国民に現金を支給するなど馬鹿げていると思われるかもしれないが、このようなベーシックインカムの構想はトマス・ペインやジョン・スチュアート・ミル、ジョン・ケネス・ガルブレイスといった著名な思想家によって提唱されてきた。これまではほとんど注目されず、検討も進んでいなかったが、従来の社会保障制度が圧力にさらされ悲鳴を上げる中、社会政策の構想として世界中で広く議論されるようになった。本書はベーシックインカム構想に関して包括的な擁護論を展開し、同構想は21世紀の経済不安や社会的排除に対処するための現実的な希望であると主張する。

著者は哲学、政治学、経済学を見事につなぎ、貧困対策・失業対策としてこれまでに議論されてきた構想と、ベーシックインカム構想とを比較していく。歴史をたどりながら、インセンティブの減少やフリーライドの助長といった経済面・倫理面の反対意見に立ち向かう。さらに、一見すると突拍子もないこの構想が経済的・政治的に実現可能であることを論じ、グローバル化が進む経済においてはさらに重要性が増していると述べて締めくくる。

格差が拡大し政治が分断される中、従来の社会問題対策は信頼を失いつつある。本書は私たちがまだ自由な社会と健全な経済を達成できるかもしれないという希望に対する新たな根拠を提示してくれる。