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原題 The Story of Silver: How the White Metal Shaped America and the Modern World
著者 William L. Silber
分野 経済学/歴史
出版社 Princeton University Press
出版日 2018/11/12
本文 前著『伝説のFRB議長 ボルカー』で好評を博した著名大学教授による、銀を通して読み解くアメリカ金融史。建国当時から現代まで約200年のアメリカ金融・経済史のターニングポイントについて学ぶことができる。

貴金属である銀への投資は、インフレや政情不安定時に強い投資手段として古くから人気があり、銀が通貨として使われた例も歴史上多い。しかし、銀は金より価格が手頃で市場も小さいため、買い占めや突発的な過剰供給によって市場が暴騰・暴落したこともある。本書では、銀がアメリカや世界の歴史におよぼした様々な影響を物語仕立てで追っていく。

たとえば、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が1930年代に実施した銀地金の買取政策には、アメリカ経済を世界恐慌から立ち直らせるという意図があった。しかし、その影響は国内だけにとどまらず、当時銀本位制を導入していた中国の国力を弱め、第二次大戦前の日本の勢力拡大を後押しすることにもなった。

またテキサスの石油王ネルソン・バンカー・ハントは、1970年代にインフレ対策の一環として銀投機を行い、一時は銀の先物市場をほぼ独占するまでになった。しかし、最終的には失敗して破産、ウォール街をパニックに陥れて「シルバー・ショック」を引き起こす。

このほか、合衆国初代財務長官として辣腕をふるったアレクサンダー・ハミルトン、反トラスト法「シャーマン法」でも知られるジョン・シャーマン、ジョン・F・ケネディ大統領とその後を引き継いだリンドン・B・ジョンソン大統領、「オマハの賢人」ウォーレン・バフェットなどが、各章の「主役」や「準主役」として登場する。物語の体裁を取っているので比較的なじみやすく、アメリカ金融・経済史をこれから学ぼうとする人の副読本としてもお勧めだ。

アメリカ金融史に学び、日本や世界の「これから」を考えるためのヒントにもなりそうな、読み応えある一冊。