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原題 Schönes neues Geld: PayPal, WeChat, Amazon Go - Uns droht eine totalitäre Weltwährung
著者 Norbert Häring
分野 経済学/世界経済
出版社 Campus Verlag
出版日 2018/8/16
ISBN 978-3593509143
本文 オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』のタイトルをもじった本書は、現在グローバルな規模で起こっている現金廃止と、画一化されたデジタルな支払い方法の波及がもたらす帰結とは、まさにハクスリーの小説のようなディストピア社会であると訴える。

その社会は、市民の全てが監視され、管理される社会である。そのような社会をもたらす、「対現金戦争」はすでに進行している。Amazonが作った現金不要のスーパーマーケットAmazon-Goでは顔認証カメラで購入者と購入したものを特定しているし、微信やアリペイが広まった中国では、それらのデータが市民の監視に役立っている。どの国でも、どのような政治体制であっても、現金の廃止とそれに伴う新しいオンラインでの支払方法の導入は、データ産業と結びつき、市民のプライベートな領域を、そして自由を奪っていくのだ。そのようなデータは、先進国が発展途上国を「投資」の名のもとに搾取することにも活用される。このような潮流の中に、政治権力も取り込まれてしまっていることも問題だ。先進国の政府は企業と一緒になって対現金戦争を支持している。それが将来的に国を脅かすことになるにもかかわらず。

ディストピアに向かう現在の状況に対抗するチャンスはまだ存在する。現状をしっかりと認識し、政治に圧力をかけていくことだ。本書の最後で著者は、このような対現金戦争に対抗する手段も論じている。将来ディストピアを生み出さないためにも、本書の洞察は現代に生きる誰もが注目し、真摯に受け止めるべきものであろう。