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原題 Leonardo's Paradox: Word and Image in the Making of Renaissance Culture
著者 Joost Keizer
分野 美術/思想哲学/歴史
出版社 Reaktion Books
出版日 2019/6/10
ISBN 978-1789140699
本文 レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)は、言わずと知れたイタリアのルネサンス期を代表する巨匠だ。ダ・ヴィンチは絵画以外にもさまざまな分野で才能を発揮した。たとえば、ノートに何かを書くことにも情熱を注ぎ、執筆に費やした時間は絵筆を握った時間より長かった可能性すらある。ダ・ヴィンチは「言葉」についての熱狂的な批評家でもあり、絵を描いているあいだも、彼の頭の片隅にはつねに「言葉」が渦巻いていた。

本書のなかで、ルネサンス美術を専門とする著者は、言葉とイメージというふたつの対照がダ・ヴィンチの思考の原動力となった、との持論を展開する。ダ・ヴィンチの言動に見られるこうした逆説的な傾向は、ルネサンス文化の核をなす概念、〈文化〉と〈自然〉にも通ずる。絵画は〈文化〉から〈自然〉への回帰の道筋となり、言葉との比較においてイメージの意味が立ち現れ、イメージの創造と執筆の違いは時間感覚の違いにも匹敵する、といった具合だ。

2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチの死後500年という記念すべき年である。その年に出版される本書は、ダ・ヴィンチの生み出した芸術作品ではなく、文字の形で書き残したものを読み解いていくことで、見落とされがちな彼の思想的側面を明らかにする。世界中の研究者により語り尽くされたかに思われるダ・ヴィンチだが、まだまだ知られていない事実があることに驚かされることだろう。