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原題 Studio of the South: Van Gogh in Provence
著者 Martin Bailey
分野 芸術/伝記/作品集/ファン・ゴッホ
出版社 Frances Lincoln
出版日 2016/11/3
ISBN 978-0711236677
本文 フィンセント・ファン・ゴッホの代表作の多くは、南仏アルルで過ごした時期に描かれている。本書は、ファン・ゴッホがアルルでの生活を始めた1888年2月から、1889年5月までの作品を季節やテーマごとに、120枚もの鮮やかな画像を使用して丁寧に紹介するものだ。『アルルの跳ね橋』、『収穫』、『日没の種まく人』、『夜のカフェ』、『ローム河の星月夜』、友人たちの肖像画など、誰もが一度は目にしたことが代表作がアルルで生まれたことを改めて実感できる。

また、1888年10月からはゴーギャンとアルルで共同生活を始めているが、ファン・ゴッホは歓迎の気持ちを表すため、ゴーギャンが到着するまでに、『黄色い家』、『アルルの寝室』、さらには、『ひまわり』を完成させている。しかし、ゴーギャンとの絵画に対する意見の相違から、共同生活は2カ月もすると緊張状態に陥った。そして、1888年12月23日には、自らの左耳を切り落とす事件が発生した。ファン・ゴッホ自身はこの事件については記憶がないようだが、すぐにアルル市立病院に収容された。1889年1月に退院し「黄色い家」に戻ると、耳に包帯をした自画像を2点描き、また、レー医師の肖像画も描いている。しかし、5月には、アルルからサン=レミの療養所に移ることになり、ファン・ゴッホの人生も大きな転機を迎えることになる。本書の解説もここで終わる。

ファン・ゴッホにとって、アルルでの15か月間は明るい色調の作品が多く、画家としても最盛期を迎えていた。本書は、その最盛期の作品だけを120枚もの画像を使って紹介しているため、美術にあまり詳しくない読者であっても、ページをめくるだけで楽しい気分になるはずだ。表紙に使われている『黄色い家』も美しい。また、ゴーギャンとの共同生活から、耳切事件まで、ファン・ゴッホの人生に興味を持つ読者にとっても、貴重な一冊となるはずだ。