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原題 Fat: A Cultural History of the Stuff of Life
著者 Christopher E. Forth
分野 文化人類学/生体構造
出版社 Reaktion Books
出版日 2019/3/11
ISBN 978-1789140620
本文 脂肪は、身体の美しさや豊富な食品を手に入れることができる能力などプラスの要素と考えられる地域がある一方、西洋諸国では、医学的見地やメディアが痩せた身体を称賛しているため、脂肪はマイナス要素と考えられている。このように、脂肪は文化人類学的には、健康と美しさに関する地域的・文化的観点の相違を表すものと考えられている。

人類は狩猟時代から、動物の骨や植物から脂肪を収集してきた。脂肪は活力を意味するため、太っていることは生命力のシンボルと考えられた。太っている男女は生殖力の高さを、痩せている男女は生殖力の低さを表した。しかし、ギリシャ・ローマ時代にキリスト教が広まると、脂肪は神聖なもの(聖油)とそうではないものに区別され、太っている人を称賛する一方で、侮蔑の対象とするなど、両極端の意味を持ち始めた。

中世には、脂肪は純粋なオリーブオイルやバターから摂取されるようになり、肖像画に描かれる国王は太っている者が多くなった。農作物が豊かに生産され流通するようになると、貴族だけではなく、楽な暮らしから太る庶民も増えていった。

17世紀になると痩せている方が、身体が強く長生きできるという考えが広まり、100歳以上の長寿になれる方法が紹介されるようになった。さらに、近代化に伴い、活力があり筋肉のたくましい人物像が好まれるようになった。20世紀以降の現代においては、極端な痩身や筋肉質な肉体ではなく、健康と美しさ、運動性のバランスが求められるようになった。

本書は、古代から西洋諸国では脂肪をどのように考えてきたかを、歴史的、文化的、宗教的観点から解明し、更に社会的地位やジェンダー、人種という視点からも検証することで、我々が抱く脂肪に関する概念や先入観の根本を解き明かしている。「脂肪」だけをテーマにして、古代からの歴史を縦軸に切るという手法も斬新であり、普段は文化人類学関連の書籍に興味のない読者も、思わず手に取ってみたくなる一冊となるに違いない。