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原題 Ethics into Action: Learning from a Tube of Toothpaste (Anniversary edition)
著者 Peter Singer
分野 思想哲学/社会問題
出版社 Rowman & Littlefield Publishers
出版日 2019/6/15
ISBN 978-1538123898
本文 1998年刊行のロングセラー書籍の改訂版。動物の権利を守る活動家として有名なヘンリー・スピラ(1927-1998)の物語を通じて、倫理的な価値や信念をどう実現していくか、社会を変えるために私たち個人はどう行動するべきかを問う本である。ベルギー生まれのスピラは、動物の権利運動の基礎を築いた人物として知られている。本書の著者ピーター・シンガーの名著『動物の開放』を読んで感銘を受けたスピラは、40代後半から勉強を始め、活動にのめりこんでいった。

スピラの手法は、ほかの多くの活動家とは違っていた。手当たり次第に、性急に事を運ぼうとはせず、どのキャンペーンを選べば世論が動き勝利が可能かを慎重に選び、綿密な計画を立てた。動物の権利を守るために、まずは小さな成功が必要なことを彼はよく知っていた。理念を掲げるだけの理想主義者ではなく、戦略を立て、最も効果的に運動を成功に導いた初めての「実践的な」活動家だった。

スピラの活動で最も有名なものは、1980年に化粧品会社大手のレブロンに、ウサギの目を使った残酷な動物実験(ドレイズテスト)の廃止を求めたキャンペーンである。大規模なデモと世論に押され、結局レブロンは代替法の研究に数十万ドルを拠出した。ターゲットとする問題を見極め、着実に成功させ、実際に多くの動物を救っていくスピラのやり方は、現在に受け継がれ、資金を持つ多くの動物保護団体が現在このやり方を踏襲している。

動物の権利に限らず、現代の社会には問題があふれている。弱者を救い、より良い社会を実現していくために、私たちは個人としてどう行動するべきか。強い意志をもって実践的なやり方で世の中に変化を起こしたスピラの活動を、本書は一つのモデルとして私たちに提起している。