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原題 Living with Coco Chanel
著者 Caroline Young
分野 芸能/ファッション
出版社 White Lion Publishing
出版日 2019/9/3
ISBN 978- 0711240346
本文 世界的ブランドのシャネルを創業したガブリエル・“ココ”・シャネルの人生を綴った本。本書が他の伝記と一線を画しているのは、彼女が暮らした住まいや場所がその仕事にいかに影響を与えたか、が切り口となっていることだ。知られざる幼少期の暮らしぶりなど、彼女の魅力を余すことなく詰め込んだ濃い一冊となっている。

貧しい家庭に生まれたシャネルは、自身が育った環境について次のように語っている――「そこから見える景色が大好きだったの。空や月を眺めて、星には願いを込めたものよ」。

シャネルが覚えている古い記憶のひとつが、墓地で遊んだものだという。おとぎ話の世界を空想したり、死者への弔いの品を用意したりして遊んでいたらしい。また、悪夢を恐れるシャネルのために父親が幸運を呼ぶものだとして麦を枕元に置いてくれたことも覚えていると語った。シャネルは大人になったあとも、富と繁栄のシンボルとして家に麦を飾っていたという。自然に囲まれて自由に育った彼女は家族の愛情を存分に受け、独創性と華やかなアイディアを育んでいったのだ。

幼少期を過ごしたオーバジーヌ、パリのカンボン通りのブティックとアパートメント、リヴィエラの一角に所有していたヴィラの「La Pausa(ラ・パウザ)」など……各土地、場所の写真や、当時のドローイング、デザイン画などを振り返りながら、そこでの生活が彼女のスタイルにどのような影響を与えたのかを考察していく。シャネルが生まれ育ったフランスの田舎町の風景などの写真も豊富に用いられており、美しい街並みを堪能することもできるだろう。

デザイナー、働く女性、時代の先駆者……多くの顔を持った彼女の人生と彼女が生きた場所にまつわるエピソードが詰まった、濃厚な一冊だ。