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原題 The Art of The Lie: How the Manipulation of Language Affects Our Minds
著者 Marcel Danesi
分野 言語学/心理学・政治学/メディア・マスコミ
出版社 Prometheus Books
出版日 2020/01/06
ISBN 978-1633885967
本文 この本は、言語を戦略的に使うことで人々の信念を操作する方法を示している。マキアベリからP.T.バーナムやドナルド・トランプまで、多くの「嘘つき」が言葉を戦略的に使うことで、自らの優位性を獲得し、議論の基調と主題を自分に有利になるよう変更し、人々の信念と行動に影響を与えてきた。著名な言語人類学者で記号論の専門家でもある著者は、言葉そのものと、比喩、皮肉、スラング、ユーモアなどの修辞的な言葉の使い方によって聞き手の心を効果的に操作できることを示す。言葉が議論を論理的あるいは合理的に進めるためではなく、聴衆の信頼を獲得し「コンセンサス」を得るために「操作」されるのだ。

言葉遣いの技術によって、語り手が聴衆の意見を左右するだけにとどまらず、彼らの現実に対する認識さえも形づくれることを明らかにする。社会的インパクトを増しつつあるソーシャル・メディアや感情的な熱狂を煽る政治集会などで、「嘘の技術」が多用されるコミュニケーション環境がどのような効果を上げるかも説明される。「嘘」がしばしば有効なものとして認められる理由も検討され、巧妙な「嘘」はその真偽にはほとんど関心がなく、面白く、説得力さえあれば受け入れられるというインターネット社会に適合している。「真実ではない情報」によって形成されたソーシャル・メディアデの議論のおかげで私たちは「嘘」に対して免疫になってしまったのだろうか?

事実が無関係とみなされ、陰謀が真実であるかのような信頼性を与えられるインターネット時代において、本書は「嘘」と「言葉」が人々の信念と倫理、さらにはアメリカの民主主義の未来に与える影響について鋭く切り込んでいる。