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原題 American Spy: Wry Reflections on My Life in the CIA
著者 H.K.Roy
分野 国際関係/軍事/時事
出版社 Prometheus Books
出版日 2019/09/24
ISBN 978-1633885882
本文 正真正銘の元CIAスパイによる13年間に及ぶ諜報活動と暗殺未遂も含む「秘密戦争」の暴露を映画化必至の面白さで読ませる。ほとんど知られていなかった軍事スパイの暗躍と諜報活動の実態を明らかにするだけでなく、政治家や政策立案者が情報部員の職務遂行能力に不当に影響力を行使する際に陥る落とし穴と危険に関する鋭い洞察も加える。

バルカン、キューバ、ニカラグア、ロシア、ユーゴスラビアと現代史の直近の出来事や現在進行形の国際紛争や「内乱」の生々しい実像をリアルタイムで現場を経験した諜報活動の専門家が報告する。なぜインテリジェンスが国防と国家の生存にとって不可欠な要素であるかにも焦点を当てる。著者はCIAの存在理由を、米国の政策立案者に「ありのままの真実」を報告することと定義する。問題は政策立案者、ことに大統領がCIAの「先見の明」に十分な注意を払わなかったことにある。ブッシュ(George H.W.)大統領もクリントン大統領も旧ユーゴスラビアに関するCIAの情報を正しく受けとめていれば、バルカンでの悲劇を回避できたはずとする。

ことにブッシュ政権は、イラクとフセイン大統領が9/11にもアルカイーダにも関係していないというCIAと軍事専門家からの情報を受け入れずイラク侵略を決定した。ユーゴスラビア、イラク、イスラム国、これらの深刻な問題は情報の誤りに起因するものではなく、ほとんどの場合に情報は正しかったと主張する。外交政策を決めるのは諜報の専門家やCIAではなく政治家だと「嘆く」。ブッシュ政権によるイラク侵略は現代のアメリアカ外交政策で最悪の誤算としながら、トランプ現大統領がこれをも凌駕するほどの大失敗を犯す危険があると指摘する。今までのところ、トランプ政権の外交政策はすべてウラジミール・プーチンの戦略的利益に叶うものだと警告する。