ブックレビュー ブックレビュー

原題 Abused: Surviving Sexual Assault and a Toxic Gymnastics Culture
著者 Rachel Haines
分野 社会・教育/スポーツ/心理学
出版社 Rowman & Littlefield
出版日 2019/04/12
ISBN 978-1538123850
本文 2歳のレイチェル・ヘインズは、初めての「ママと一緒」体操クラスに参加した時にその後21年間に及ぶ過酷な練習と忍耐,そして全米チャンピオンの栄光が待っているとは考える由もなかった。ましてや自分が大怪我や精神的な苦痛さらには性的な暴力の犠牲になろうとは思いもしなかった。

アメリカのスポーツ史上最も悪名高い性的暴力事件(ミシガン州立大学とアメリカ体操協会に所属した医師ラリー・ナッサーによって500人以上の女性アスリートが被害に遭った)を生き延びた体操選手のレイチェル・ヘインズが赤裸々に語る実体験を通じて、純粋にスポーツを愛する世界中の少年少女に警告を発する問題作。著者は自分が愛するスポーツは、友情や達成感、大学教育の機会などの恩恵を与えてくれた一方、正さなければならない危険な弊害も多いことを明らかにする。

体操競技の厳しい練習や競技会の様子などの描写は臨場感にあふれ、読者にこのスポーツの魅力を訴えることに加えて、本書全体が癒しと赦しそして贖罪の物語として感銘を与える。

本書が提起する課題はアメリカの体操競技に限定されるものではなく、近年の日本でも続発するスポーツ界の「不祥事」(相撲、アメフット、ボクシング、レスリングなど)が内包する問題にとって「他山の石」としても読まれることだろう。