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原題 Drink?: The New Science of Alcohol and Your Health
著者 David Nutt
分野 お酒/医学/社会問題
出版社 Yellow Kite
出版日 2020/01/09
ISBN 978-1529393231
本文 もし、お酒の発見が最近の出来事であったなら、違法薬物とみなされていただろう。現在の食品安全基準に当てはめると、1年に口にできるのは、ワインをグラス1杯程度だ。「適度な飲酒」という言葉をよく耳にするが、(本書の第2章で述べられているように)そもそもアルコール摂取量に安全なレベルなど存在しないのだ。

本書には、アルコールが人体や社会に与える広範囲で深刻な影響が書かれている。40年の医学的研究と実際の患者を治療した経験を持つ著者が、全ての人々が知っておかなければならない(精神衛生、睡眠、ホルモン、生殖能力、依存症などに関する)アルコールの害について、難しい科学的事実をわかりやすく説明して、「適度な飲酒」の本当の意味を明らかにしている。

精神神経薬理学者であり、医者としてアルコールがもたらすあらゆる災難をじかに目撃してきた著者は、2007年に発表した薬物使用に関する研究のために、イギリス薬物乱用諮問委員会(ACMD)の会長職を追われた。政府も酒類販売メーカーもある「明らかな理由」から、アルコールをドラッグのように扱って欲しくなかったのだ。当時、ACMDはアルコールをドラッグとみなしていなかったが、科学者たちの考えは違っていた。その後彼は、同様にACMDを辞職した同僚たちと薬物に関する独立科学評議会(ISCD)設立した。

著者はケンブリッジ大学入学の日に同じ医学部の新入生9人で近くのパブへ行った。パブが閉店した後、彼らは寮に戻り、賑やかにワインを飲み続けた。しかし、やがてそのうちの1人が激しく嗚咽を漏らして泣きじゃくりだした。心配した著者がその男の友人に「救急車を呼ぼうか?」と尋ねると、彼は「大丈夫だ。いつものことさ。朝になればすっかり忘れてるよ」と言った。翌朝、彼は本当に全く覚えていなかった。著者はアルコールのせいで、成績優秀で自身に満ち、人好きのする人物があれほど取り乱す姿を見て、その時以来、アルコールやドラッグが人や社会に及ぼす害について考えるようになった。

著者は、娘の1人と一緒にロンドンのイーリングでワインバーを経営している。お酒の良い面と悪い面を知り尽くしている彼は、正しい情報に基づいて上手にお酒と付き合うために、自らの知識と経験とアイデアを駆使して、アルコールが、どのようにしてこれほど大きな喜びと苦しみを生み出すのかを丁寧に解説している。