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原題 Transcend: The New Science of Self-Actualization
著者 Scott Barry Kaufman
分野 自己啓発/心理学
出版社 TarcherPerigee
出版日 2020/04/07
ISBN 9780143131205
本文 アメリカの心理学者アブラハム・マズロー(1908-1970)の提唱した自己実現理論は、マズローの死によって未完のままとなっていた。心理学の教科書などではよく「欲求5段階説」として5段のピラミッドの図とともに説明されるマズローの自己実現理論というのは、端的に言うと、生理的欲求や安全欲求などの欲求が満たされた最後の段階に自己実現の欲求があり、それこそが人間が最終的に目指しているものである、とする理論である。

しかし、本書の著者で心理学者のスコット・バリー・カウフマンは、マズローのこの理論は未完成だったことを発見した。マズローは、自己実現の欲求のさらに先、「超越」を本当のゴールに設定するつもりであったのだ。超越とは、自己の枠組みならびに自己と他者の境界を越え、自己の欲求よりもさらに高次の欲求、つまり世界全体に貢献することを目指す人間のあり方である。

マズローの研究の未完部分の丹念な調査と自身の新しい研究成果を踏まえてカウフマンは、利己的な側面を持つ自己実現と利他的な側面を持つ自己犠牲がどのように深層でつながっているのかを解明している。本書は、「超越」へ至るための自己分析の方法や、自己と世界の境界を超越するための道筋を示す、新しい自己実現の科学を打ち出すものだ。