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原題 Fashioning China
著者 Sara Liao
ページ数 224
分野 メディア、マスコミ、マーケティング、広告、インターネットビジネス、 世界経済、ネットワーク、社会、文化人類学、デザイン、ファッション
出版社 Pluto Press
出版日 2020/02/20
ISBN 978-0745340692
本文 デジタル・バリケード・シリーズ(Pluto Press)の一冊。デジタル(Web)の世界は人々を結び付け、社会、政治、経済に革新的な可能性を与える。一方で人々を監視し、世論を統制することもできる。それを防ぐのがバリケード。本書はそのシリーズの中の一冊。

中国 広東州 深圳の山寨(さんさい)は、模倣品、イミテーションの文化で世界中に知られている。2000年代以前にアップルや有名メーカーのコンピューター、携帯、家電製品などを模倣した “山寨機” がブームとなった。現在は、ファッション、ブランドものを中心に服飾関係のコピー製品、模造品が有名だ。世界の一流ブランドから日本、韓国等のブランドまで幅広く手掛けている。合法と非合法、創造性とイミテーションの狭間にいる一大産業だ。
“山寨ファッション産業” の担い手は、女性デザイナーたち。年齢は20代から30代。既婚者が多く、小さい子供がいる世代だ。皆、夫やボーイフレンドの助けを借りて、たった一人で奮闘する自営産業だ。本書は、山寨デザイナーたちのビジネスと生活、そのバイタリティを生き生きと描写する。彼女たちは、デジタルプラットフォームを最大限利用して、低コスト・低価格で地方の消費者に服飾を販売する。驚くべきスキルはe-コマースのテクニックだ。オンラインモールのTaobao、ミニブログのWEIBO、インスタントメッセージのWeChatの機能を駆使して、業界情報や規制の状況を徹底的に調べ上げ、ファッション流行の方向性をつかみ、服飾のテンプレート作成から、素材選び、製造先の選定、顧客への輸送手配まで、すべてを一人で完結させる。消費者との関係づくりもユニークだ。販売した服を着た姿を自撮りしてもらい、これをコメントとともに送ってもらって、Webに掲載する。「バイヤーズ・ショー 」と言う 、Web上のファッションショーだ。スマホ1本ですべてを仕上げてしまうバイタリティには驚嘆する。中国の指導層は「富める者から富め」と声をかけて、「チャイニーズ・ドリーム」のスローガンのもと経済発展を推進する。これは、政治経済のエリート層を念頭においたものだ。だが、山寨ドリームは草の根だ。

はたして、山寨文化が国家主導の文化・経済に与えていく影響は!?
大変興味深い一冊だ。