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原題 Roger Federer: Phenomenon. Enthusiast. Philanthropist
著者 Simon Graf
ページ数 160ページ
分野 評伝/スポーツ
出版社 Kurz & Bundig
出版日 2019/6/1
ISBN 978-3907126110
本文  フェデラーは本当に面白い。本書はフェデラーの幼年時代から、ツアーでの活躍、日常生活まで、さまざまな彼の横顔を映し出した一冊だ。まるで生身のフェデラーが目の前で笑っているようだ。テニスの天才、スイスの国民的英雄、スマートな戦略家、あこがれの的、博愛家、洗練されたコスモポリタン、スイスと同じ中立の男。称賛することばは限りない。彼は言う「テニスはタフなスポーツだ。だがスポーツの枠を超えるものではない。人生にはもっと大切なことがいくらでもある」。彼は誰からも憎まれない。2005年のウィンブルドンのファイナル。優勝はフェデラーだ。試合後対戦相手のアンディ・ロディックがこう言った「お前を憎みたい、だが、お前は本当にナイスだ」。この魅力はいったいどこから生まれたのか。

 本書の構成は、16章からなる。各章は独立しており、興味がある箇所を順不同で読めばよい。第1章は敗戦の話だ。2013年、彼は絶不調の中にいた。コートでの動きは固く、まるでロボットだった。ウクライナの無名の選手にボロボロの負け試合。だが、ここからが、彼の真骨頂。試合後は、大敗のフラストレーションをゴクンと飲み込んで、インタビューもひるむことなく、長い時間のぞみ、そのあと彼の知人やファンとの歓談会も和やかに談笑して楽しいひと時を過ごした。彼は言う「負けはいやなものだ。だが、避けられものではない。だから負けとどう向き合うかがキーとなる」負けたあと、どう行動するかでその人物の真価がわかるのだ。第4章、少年時代スイス・テニス・アカデミーでの彼は手の付けられない爆弾だった。思うようにいかないと、ラケットを投げて、コートのネットをぶち破る。罰として、1週間、トイレと事務室の掃除。15歳の時チューリッヒでのワールド・ユース・カップは最悪だ。ラケットを投げつけ、大声で自分を罵倒し、叫び回り、まわりの目は全く気にしない。まるでこの世に存在するものは自分とボールとラケットだけといったようなありさまだった。このような少年が、いかにして今のフェデラーへと変貌を遂げたのか。

 各章には彼のさまざまな表情の写真がある。まるでわれわれにその秘密を語りかけてくるようだ。とにかく、フェデラーは面白い。

*公式本ではありませんが、本人が内容を確認し、問題がないことを認めています。