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原題 LESS IS MORE
著者 Jason Hickel
ページ数 336
分野 経済・社会・環境
出版社 William Heinemann
出版日 2020/08/13
ISBN 978-1785152498
本文 世界はようやく気候変動と環境崩壊の現実に目を転じるようになった。異常気象が猛暑や寒波、巨大な熱帯低気圧を生み出し、各地に壊滅的な打撃を与えている。海にはプラスチックが漂い、人跡未踏だったジャングルは焼き払われ、住処を追われた動物たちがさまよう。この地球を破壊するスピードは上昇の一途だ。資本主義は拡張を旨とし、とどまるところを知らないが、そのおかげでこの世界は荒廃の一途だ。今すぐ有意義な変化をもたらすことができる解決策は一つしかない。逆成長だ。

この危機を乗り越えるためにはバランスを回復することが必要だ。自然に対する考え方や自然の中での私たちの立場をもう一度考え直す必要がある。支配し、搾取する考え方をやめ、相互依存と再生可能性に基づいた考え方をしていかなければならない。資本主義のドグマをすて、21世紀にふさわしい新しいシステムへと進化しなければならない。しかし、それはどんな社会なのだろう。

そのカギは “Less is More(少ないほうがより豊か)”にある。産業革命以降成長を続けてきた世界は今やたった1%の富裕層が世界GDPの4分の1を手にしている有様だ。ところが教育や保険制度、長寿率などを調査すると富める国よりもそうでない国のほうが満足度が高かったり、よい結果を得られたりしている。半面飢餓や疫病に苦しんでいる地域もある。つまり富と生きやすさとは必ずしも一致しないのだ。

本書はこうした問題に取り組みポスト資本主義経済への道筋を明示する。より公正で他への思いやりに満ち、楽しい経済。生態系崩壊への流れを変えながら人間の繁栄を可能にする経済。現在の危機的状況から脱却するだけでなく、あまたの生命であふれかえっている世界との絆をよみがえらせてくれる経済。Lessを取ることで、私たちはMoreになれるのだ。