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原題 HOW TO BE ANIMAL: A New History of What it Means to Be Human
著者 Melanie Challenger
ページ数 256
分野 心理学・哲学・環境
出版社 Canongate Books
出版日 2021/02/04
ISBN 978-1786895714
本文  世界は自分を動物だと思っていない動物に支配されている。
そしてその将来も動物でありたいと考えてもいない動物によって思い描かれている。
何かおかしくないだろうか。

 人類は例外的な存在であると誰もが考えがちである。私たち人間は何世紀も自分たちが動物だと思わずに生きてきた。理性だとか意識だとか、何か他とは違ったものが備わっているのだと。宗教的には、人間は動物でなく魂の入った創造物なのだと。私たちはほかの動物との間に何とか境界線を引こうとするものだ。

しかしそれには限界がある。動物であるヒトの中のある部分を取り上げて人間とか道徳的行為者とか魂とか名付けようとすると、とたんに自分たちの中には生物学的ではない究極の善とか命とかがあるという誤った考えに陥ってしまう。それが高じると永遠の命や精神の修養や機械になることを求めてしまうのだ。そもそも人間が特別であるという根拠になっている「思考」や「知性」や「意識」とは何かということについて共通の理解はない。

本書は人間であるとはどういうことなのかについてのたぐいまれな論考であり、動物であるということで心の奥深くに葛藤が生じると論じている。また、この心理がいかに進化してきたか、人間の生活にどうかかわってきたかを、政治面に始まり、他の種との線引きに至るまで幅広く検証している。ホモサピエンスの起源から農業、産業革命、インターネットの時代、AIとマンマシンインターフェイスの未来まで見通しながら、テクノロジーが人間の獣性感やこのこわれやすい惑星上で共に生きる他の種との関係にどのような影響を与えているかについても考察を加えている。

幅広い分野から集めた例証を駆使し、時には繊細な詩的さと時にはダイナミックな直截さを兼ね備えた筆致で、筆者は動物であるということは、美しく予知不能なプロセスであり、私たち人間にとって大事なことであるならば、他の生き物にとってもそうであるという、新しい視点で生きていくべきだと主張している。