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原題 Automation and the Future of Work
著者 Aaron Benanav
ページ数 160
分野 経済/社会/労働/IT
出版社 Verso
出版日 2020/11/3
ISBN 978-1839761294
本文  スマートフォン、ロボット、自動運転、電子取引、AI。デジタル化によるオートメーションの流れは今や全世界を飲み込んでいる。シリコンバレーの巨人たちや政治家、テクノ未来派、社会評論家はみなこぞって次のように主張している。私たちは急速に進む技術的自動化時代のとば口にあり、既存の労働は間もなく終わりを迎えるのだ。人類の夢である働かなくても暮らしていける世界がいよいよ実現するのだと。本当に新しい人工知能によって人類の自由への夢を可能にするような社会変革が起こるのだろうか。それともその夢は大量の失業者を生み出す悪夢となってしまうのだろうか。

 現実に人間の多さに比べて仕事の数は少なすぎる。慢性的な仕事不足がポピュリズムや金権主義、一握りのデジタルエリートを生み出している。とめどない技術革新が人々の仕事を奪っていると主張する専門家もいるが、筆者は、それは間違いだと断定する。

 製造業の現場では長年にわたり需要を上回る生産能力過剰の状態が続いており、脱希少性の時代に入っている。その結果全産業の推進力の役割を果たしてきた製造業はその力を失った。一方サービス部門は低成長、低生産性の活動が大部分である。さらにコロナウィルスによる景気後退が長期化する経済的不安定・不均衡に拍車をかけている。
 
 労働需要減少の原因は技術革新の飛躍的向上に帰すべきものではなく、ますます深まりつつある経済停滞の中でそれが起きているだけなのだ。その中でわれわれはどのような対策を取ればよいのか。筆者は経済学者、社会理論家、オートメーション理論家など新旧を問わず、思想立場を越えた多くの専門家の理論を引用しながら論じている。一部の専門家が推奨するケインズ経済型の介入や最低所得保障の導入も一つの手である。しかしこの脱希少性経済を生き延びるのに本当に効果的な特効薬は見つかるのだろうか。労働が社会の中心ではなく、人々が自由な時間を楽しめる社会が本当に実現できるのだろうか。