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原題 The Lost Art of Doing Nothing
著者 Maartje Willems
ページ数 160
分野 ライフスタイル、自己啓発
出版社 The Experiment
出版日 2021/03/30
ISBN 978-1615197644
本文 今から50年ほど前の高度経済成長期の昭和の時代。家庭や家族を顧みずガムシャラに働く企業人たちは、戦地に赴く兵士になぞらえ「企業戦士」と呼ばれた。多くの犠牲を払いながらも、彼らは右肩上がりの経済拡大と人口増のおかげで多くの恩恵を得た。モーレツに働き、高給を得て、大量に物を所有できたのだ。

時代は流れ、昭和から2度の改元を経た令和の時代。社会全体は高度に複雑化し、経済低迷と人口減の下、人々は昭和と違うストレスにさらされ、先行きの見えない不安や行き場のない怒りを感じている。ニートや引きこもり、ワーキングプアを生み出す社会的風潮が漂う時代、忙しくがんばるだけではうまくいかない。何かが間違っていると人々は感じ始めた。

モーレツながんばりや多忙な生活、物質主義に疑問を抱いた多くの人が、ミニマリストや断捨離、スローライフやシンプルライフに目を向け、自らの生活を見直すようになった。物を捨て、のんびり、すっきりとした生活を送る人物や方法について書かれた書籍は数多い。しかし本書はオランダに伝わるニクセンという「何もしない、何も考えない」方法を教えるという書籍だ。人間にとって何もしないことは意外に難しい。本書には何もしない、何も考えないようにする上で重要な、時間を気にしない、穏やかな気持ちになる、良い環境を作る具体的な方法がスタイリッシュなイラストと共に示されている。本書は忙しさを美徳とする価値観や、時間に追われる日常から離れ、何もしない時間を作ることで心身を整え、人生を充実させることの大切さと豊かさを示教えてくれる。

ワークライフバランスが叫ばれる昨今でも、残念ながら、問題は人々の意識の中に根強く残っている。オランダ流ライフスタイル指南書である本書は、そんな日本人に、幸せな生き方のヒントを与えてくれる一冊となるだろう。