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原題 Material
著者 Nick Kary
ページ数 272
分野 芸術、工芸
出版社 Chelsea Green Publishing
出版日 2020/09/30
ISBN 978-1603589321
本文 現代社会は大量生産・消費のシステムの中で動いている。自動車から日用品にいたるまで、パソコン上でデザインされた画一的な商品が、高度に機械化・オートメーション化された広い工場で安価に量産されている。中には、人の手が全く触れることなく、工場から出荷されることも少なくない。私たち消費者はなんら気にすることなく、それらを大量に消費している。

一方で人間には、自らの手と道具だけで独創的な美しいものをつくりたいという欲求があり、優れた手技と完成品はときに人を感服させることがある。卓越した技術力を誇る現代の名工たちの妙技と作品は、人々のこころを魅了してやまない。かれらが編みだす伝統的な手工芸品は、量産品にない美をまとい、芸術作品としての滋味にあふれているのだ。本書ではそうした一流の職人たちが伝統的な技術と知識を守り引きついでいく現場を、細かな描写をまじえて紹介している。

木や金属、土、その他どんな材料を使うにしても、伝統的な手工芸とは人間が材料を自然から拝借し、歴史文化に根差した継承技術を使って手を加え、形をつくり変える行為である。自身も家具職人である著者はそうした品々の中に、人間と自然、歴史文化とのつながりを強く意識しているのがうかがえる。単なる工芸品や伝統技術の紹介にとどまらず、本書ではそれらをとりまく自然や文化、歴史の関係性まで深く考察しており、私たちの生きる現代産業社会の本質や今後のあり方についても示唆に富んでいる。