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原題 Fermented Foods
著者 Christine Baumgarthuber
ページ数 224
分野 食品、生物、化学、歴史
出版社 Reaktion Books
出版日 2021/04/08
ISBN 978-1789143751
本文  何千年もの間発酵食品(パン、ワイン、ビール、ピクルス、ソーセージ、チーズ)は物不足のときも飢饉のときも人類の栄養分となり、ひいては古代王国の創成や産業都市の建設に一役買ってきた。発酵とそれがもたらす保存効果によって食べ物は安全性を増した。ちっぽけな微生物(バクテリアやイースト菌や糸状菌)はキャベツをキムチに、ブドウをワインに変えてしまう魔法を見せてくれる。それでも19世紀から20世紀にかけて汚染菌への恐怖が広がり多くの人々が自家発酵をやめて大量生産された食品を購入するようになることがあった。古くから食品の保存や味の点で微生物が役立つことは知られていたが、一方でそれが害を与えることもわかっていた。当時、アメリカでは衛生運動の真っ最中であり、大企業はそれに乗じて衛生面での安全性を強調した大量生産の商品を売り出したため、自家製の食品は忌諱されるようになってしまった。

微生物を使った発酵食品の製造は手間がかかる。温度・水質・原材料などの管理が必要で時間もかかる。それでも、風味や味の点では工場で作られた製品は足元にも及ばない。さらに、栄養価や健康に与える影響の点でも卓越している。血糖値の上昇を抑制し生体利用率の高い栄養素の含有量も多い。グルテン関連障害を軽減する働きがあるともいわれている。菌類の作用は扱い方によって良いほうにも悪いほうにも働く。

本書では様々な発酵食品を通して人間と微生物との格闘の歴史を科学的な知見を交えて紹介している。発酵作用を通して良質美味な食べ物を追求する努力は時代や場所を問わず積み重ねられてきた。ラボでの研究や経験、試行錯誤に基づき形成されてきたノウハウは今や我々の生活に根付き、生活様式や価値観を左右するまでになっている。ここにはその全てが紹介されている。