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原題 THE SECRET HISTORY OF HOME ECONOMICS
著者 Danielle Dreilinger
ページ数 336
分野 社会/社会問題/歴史
出版社 W. W. Norton & Company
出版日 2021/05/04
ISBN 978-1324004493
本文 あなたは家政学と聞いて何を思い浮かべるだろうか。家で手作りケーキを焼いたり、縫い物をする・・・そんなイメージを抱いていないだろうか。家政学の創始者たちは、例えばMITに入学した初めての女性で、女性を日々の単調な仕事から解放するために科学を活用しようとしたエレン・スワロー・リチャーズ、または家庭環境の向上こそ、人種間の不平等を正すために必要だと考えた黒人女性のマーガレット・マレー・ワシントンなどだ。つまり家政学の本質は家庭の中から世界を変えようとする精神にある。

本書は、家政学は単に家事を学ぶ女性だけのための学問である、という世間の一般的なイメージを覆し、家政学がその成立期から現代にいたるまで、女性の地位向上と社会参画、人々の生活の質の向上、職業創出、時には戦時期の国家の下支え、そして社会の変革などの役割を果たしていることを、家政学の知られざる歴史を紐解くことで明らかにしていく。
本書はアメリカを中心とした家政学の歴史を追っていくだけでなく、特にその黎明期に活躍した女性たち個々人の活躍と生活にも迫っていく。その中で、昨今のアメリカにおける大きな潮流である人種主義に対する問題意識も汲んでおり、家政学が時に人種主義的行動を推奨する過ちを犯したことに触れつつも、黒人女性にも教育を与えるために黒人のための大学を創設したことや、先述したマーガレット・マレー・ワシントンのように黒人女性が家政学の先導をとってきた歴史にも言及していく。

家政学は女性を家に縛り付け、家事についての技術を取り扱うだけのものだとする一般的な見方を超えて、社会全体や、個々人の生活をより良くしようとするものであるということを今一度理解することは、女性のさらなる社会活躍と、多様性が求められる現代社会において、新たな視座を得られる大事な一歩となるかもしれない。