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原題 IMMUNIZATION
著者 Stuart Blume
ページ数 288
分野 医学, 社会問題, 歴史
出版社 Reaktion Books
出版日 2021/04/12
ISBN 978-1789145045
本文  今、新型コロナウイルスとその多様な変異株に打ち勝つために、ワクチンはなくてはならない存在である。本書はワクチンを人々の健康を向上させる、数多くの手段の中の一つの技術として位置づけ、人類社会におけるワクチン史を振り返ることで、近視眼的にワクチンの利点とリスクを分析するのではなく、より大局的な視点から示唆を与えようと試みるものだ。

 本書では近代医学創始者の一人と言われ、ワクチン予防接種の祖であるフランスの化学者・細菌学者のルイ・パスツールや、パスツールとともに近代細菌学の祖と言われている、ドイツの細菌学者で、細菌の病原性を確認する「コッホの三原則」を確立したノーベル医学生理学受賞者、ロベルト・コッホの活躍、そして彼らの研究の成果が元となって、根絶された天然痘(1980年にWHOによって天然痘根絶宣言が出された)、そして現在ワクチンの最先端であり、現在対コロナワクチンとして注目を集めているDNAワクチンまでの変遷を詳細に追っていく。

 本書はこれまでのワクチン研究の栄光だけでなく、人々が病気に対して抱く恐怖心と、それを煽る社会や政治の危うさに対しても、これまでの歴史的事象を追い警鐘を鳴らす。筆者は、過去30年以上の時代の流れの中でグローバル化と、世界的な医療支出の削減が進んだ結果、ワクチンの生産者・供給者に対しての信頼が徐々に損なわれてきたという。そして社会がワクチンの恩恵を得て疫病に打ち勝つためには、効果的なワクチンの開発だけでなく、適切な最新技術の活用と投資活動、社会全体に対する適切な予防接種体制の計画が必須であることを今一度強調する。
 本書は公衆衛生の専門家だけでなく、これからコロナワクチンを打つすべての人々にとって、まさに今読むべき本である。