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原題 EVERYDAY TRAUMA
著者 Tracey Shors PhD
ページ数 304
分野 社会、メンタルヘルス、精神医学
出版社 Flatiron Books
出版日 2021/12/14
ISBN 978-1250247001
本文 トラウマ(心的外傷、つまり「心の傷」)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、戦争やテロ、大怪我、暴力といった、何かひとつの大きな出来事だけがきっかけであるとは限らない。不運な幼児期を過ごしてきた、誰かと死別した、いじめに遭った、出産した、長期におよぶ介護、離婚、貧困などの日々のストレッサーが積もり積もって引き起こされる。積み重なったストレスの蓄積が心身の健康に重大な影響をもたらし、やがてトラウマへと繋がるのである。

著者によると、男性と比較して、女性はストレスやトラウマに弱く男性の3倍もPTSDにかかりやすいといわれている。女性の方が反芻思考に陥りやすいためである。トラウマが頭をよぎるとき、その辛い瞬間の記憶が脳の中で複製され、忘れられない記憶となる。このため、一般的に、トラウマは克服が困難なものとされている。本書では、著者の専門であるトラウマの背景にある神経科学にも触れ、精神の健康に対する読者の知識を深めてくれる。

辛い精神的な病気の症状を和らげ、トラウマを克服するためのメソッドである精神的・肉体的トレーニングを組み合わせた「MAPトレーニング」を紹介するのが本書の目的である。このメソッドの長所であり画期的な点は、そのシンプルさにある。瞑想、ウォーキング、有酸素運動の3つを融合させたメソッドで、要するに、「座って、立って、汗をかく」だけでいいのである。8週間続ければさまざまなトラウマも処理できるようになり、PTSDの症状も和らぐ、と著者は説く。

30年に及ぶ研究結果に裏打ちされた、誰でも簡単に実践でき、かつ効果のあるメソッドを紹介した本書は、トラウマや鬱、PTSDに悩む人にとって救いの一冊になるといえる。