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原題 PUMP
著者 Bill Schutt
ページ数 288
分野 動物学・科学
出版社 Algonquin Books
出版日 2021/09/21
本文 医学者や生物学者らは古くから様々なアプローチを用いて、心臓という臓器の科学的な解明を試みてきた。本書では動物学の権威が、シロナガスクジラの巨大な心臓を標本にするエピソードからはじまり、さまざまな生物の心臓血管系について解剖学的、生理学的な見地から考察している。また、先人たちが、心臓についてどのような研究を積み重ねてきたのか、その歴史的な歩みもひも解いていく。

心臓、心、愛情、中心…。英語のheartを辞書で引くと、この一語に多くの意味が含まれていることがわかる。心臓には人体の血液循環を司る単なる一つの臓器にとどまらない象徴性があるのだ。また、人間の感情や魂とも密接な関係を持ち、文化的な重要性を持つ臓器でもある。例えば、古代エジプトの神オシリスは最後の審判をくだす際、天秤の片方に死者の心臓を、もう片方には「真実の羽根」を乗せたという。つり合いがとれれば、死者は永遠の楽園に行くことができるが、そうでなければ怪物に食われることになった。このため、ミイラを作るときに、遺体から脳や他の臓器は取り出されても、「死者の審判」に必要な心臓だけはそのまま体内に残されたのだという。心臓の持つ神秘性は古代エジプトの人々のまさに心を魅了するとともに、彼らの信仰に大きな影響を与えていたようである。

本書にはかなり専門的な用語も登場し、心臓やさまざまな血管など、循環器系全体の構造を詳細に示した挿絵も多数掲載されている。心臓について多様な側面から理解を深めることができる、読み応えのある一冊だ。