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原題 FIRES OF LUST
著者 Katherine Harvey
ページ数 296
分野 社会、歴史、文化人類学
出版社 Reaktion Books
出版日 2021/10/11
ISBN 978-17891448895
本文 中世の医学では、セックスが多すぎる、または少なすぎることも死につながる可能性があると信じられていたそうだ。
ところが、中世のセックス事情は厳しく取り締まられていた。当時ローマカトリック教会は純潔を理想としており、敬虔な信者たちは生涯禁欲を貫いた。そして誰もが誰と、どのように、どのくらいの頻度で、いつセックスをするべきか、事細かに決められており、それを破ることがあれば、厳しく罰された。

現代の多くの人々の生活からは想像もつかない一方、現代の私たちとの共通点もある。中世の人々は、ふさわしいパートナー探しや、妊娠する(またはしない)ための対策に私たちと同じように悩み、苦労していたのだという。さらに中世では、売春を合法化すべきかという社会的問題も抱えていた。そして、私たちと同じように「下ネタ」や官能的な画像が好きだったともいわれる。なんとも身近に感じられる共通点ではないだろうか。

読めば、中世の人々の性生活を通して、中世のありふれた人々をより身近に感じさせる本書は、彼ら個人個人の考えや経験を詳細にあばく。さらに本書は、過去と現代の重要で密接なつながりを浮かび上がらせる。

「セックス」という扱いづらいトピックに、大胆かつ機知に富んだ切り口で攻めた一冊だが、作者の医学史に関する知見が深みを与えている。『歴史(〈一冊でわかる〉シリーズ)』(岩波書店、2003年)の著者ジョン・H・アーノルドは「中世の生活を丸裸にしながらも、そこには尊敬の念と気遣いがあふれている」と評し、その功績を認めている。思わずクスッと笑ってしまう描写もあり、誰でも気軽に読めるが、詳細な研究に基づいた学術書ともいえる。中世史・文学・文化の研究に、大いに役立つだろう。17点の図つき。