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原題 HOW TO BE AN URBAN NATURALIST
著者 Menno Schilthuizen
出版日 2023
本文  19世紀、ダーウィンが活躍していた時代、科学は裕福な紳士淑女の知的な娯楽であった。有名や科学者やその仲間たちの中にはプロの科学者などいなかった。フィールドワークは家族でのお出かけ行事だったし、論文は夜、ガスライトの下で書き上げられ。同好の士の集まりで読み上げられたものだ。20世紀になると科学者のプロ化が始まった。知識や技術が向上し、巨大な研究室、多くの技術者、高価な備品、膨大な数の書籍やコンピューターなどが必要になり、もはや素人の入る余地はなくなってしまった。

しかしここ十数年の間に科学はいつの間にか庭園の納屋やリビングルームの中に戻ってきているようだ。オープンサイエンス革命のおかげで世界中の科学資料はオンラインから入手できるし、安価な研究用の機械もeBayやAmazonで購入することができる。取扱い方もオンラインのコースで学ぶことができるし、初心者のためのフォーラムやフェイスブックのグループもある。2世紀前と同様、高度な科学は志のある者たちの手に届くところにある。

 そうした流れを受けて、今や地域の科学者たちが町へと繰り出している。無味乾燥な都市の中に、彼らが観察できるようなものは何もないように思えるが、実は都会にも生態系は存在する。人間によって作られたこの独特な生態系は固有の種と農作物、ペット、ガーデニング、水族館などからこぼれ落ちたものが混じりあい、好奇心旺盛な自然愛好家にとって恰好のフィールドとなっている。本書では世界各地の自然愛好家たちが、自然科学の分類、行動、生態、進化などについて、重要でわくわくするような発見をするために、町の中でできること、していることの実例を示してくれる。

近所の公園の生態系の構造を解明したり、絶滅したと思われたテントウムシを再発見したり、個体数が減少している昆虫をマッピングしたり、外来種の侵入を追跡したり。さらに、道路の安全地帯の動物や植物について島嶼生物地理学理論の観点からわかることや、自然保護区は広いエリアが一つあるよりも、小さな規模のものが点在しているほうが望ましい理由についても教えてくれる。都会のゴミとそれを狙う厄介者たちとの知恵比べはまさしくハマグリとカニが何百万年にもわたり繰り広げた進化論的軍拡競争をほうふつとさせて興味深い。