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原題 The Art of Verbal Warfare
著者 Rik Smits
ページ数 640
分野 科学/言語学
出版社 Reaktion Books
出版日 2022/07/11
ISBN 978-1789145946
本文  古代や中世の時代、戦争の結末はきわめてシンプルな要素に左右された。敵より優れた武器があるか。多くの兵士がいるか。天候や地形を熟知しているか。兵站は確保できているか。要するに当時の戦争はおおむね、物理的条件によって勝敗が決していたわけだ。
 ところが現代の戦争事情は大きく異なる。ウクライナへの軍事侵攻を行ったロシアは、「ハイブリッド戦争」を国家戦略にかかげている。ハイブリッド戦争とは、武力行使に加え、サイバー戦や情報戦など従来なかった手法を複合的に駆使し、敵国を撹乱させる戦争形態のことだ。ロシアがとくに注力するのはテレビや新聞雑誌、SNSなど、様々なメディアを通じてフェイクニュースを流し、政治的プロパガンダを工作することだ。これは国威発揚を狙い、敵国の兵士や国民の不安を煽り、自国に有利なように事を運ぶためだ。
 メディアによる情報発信は一般の人々に情報が直接届く反面、その悪影響が懸念される。とくに双方向媒体であるSNSでは、劣悪な誹謗中傷や事実無根の投稿内容が後を絶たない。それが原因で自ら命を絶ったり、名誉毀損で訴訟を起こしたりする事例は、大きな社会問題となっている。
 本書のテーマは悪口や罵詈雑言、相手を非難するという行為そのものだ。子どものたわいのない口げんかから舌鋒鋭いコメンテーター同士の討論まで、どの場面でも起こりうる人間の負の一面だ。本書ではそうした感情に根付いた非合理的現象を、言語や歴史、宗教や哲学など様々な側面から考察していく。
 口汚い言葉や口論について敢えて学ぶことで、口論をうまく回避するためのヒントが得られるだろう。
悪口・誹謗中傷について考えるということは、すなわち良好な人間関係をどう築くかについて考えることでもある。これによって、人間関係のトラブルを未然に防ぐことができるだろう。
コミュニケーション力向上の一助となる一冊だ。