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原題 Winters in the World
著者 Eleanor Parker
ページ数 240
分野 文学、歴史、民俗誌
出版社 Reaktion Books
出版日 2022/09/26
ISBN 978-1789146721
本文 イギリスと日本はユーラシア大陸をはさんでちょうど両端に位置する島国である。ともに自然に富み、一年を通じ四季折々違った顔をみせてくれる。長い歴史と伝統を持ち、そこから豊かな文化芸術も生まれてきた。自然は人の営みに影響を与え、人は自然をコントロールしながら、日々の生活を送ろうとする。そこから信仰や慣習、儀式などが発生し、その成り立ちは説話、詩などに記録される一方、一部は今でも私たちの生活に根付いている。本書はイギリス文化のルーツであるアングロサクソン人の一年を様々な文献を通じて振り返ることを試みる。

5世紀から11世紀にかけのイギリスは、ゲルマン系のアングロサクソン人によって支配されていた。この時代は現代のイギリス社会の基礎が形成された時期として、英国史上重要な期間である。言語(英語)、入植、町村の命名、君主制、国教会、そして英国そのものが形を成してきた時代だ。とりわけ、一年間のサイクル、祭礼、祝典、慣習の数々はこのころ生まれ、今でも毎年繰り返される季節ごとのサイクルの土台をなしている。本書で多く取り上げられている聖職者・歴史家ベーダの著書や詩集である『エクセター本』、叙事詩『ベーオウルフ』はこの時代の創作だが、それらを紐解きながら、著者はイギリスの一年の起源を探る旅に読者を誘う。

クリスマス、イースター、聖燭際、聖霊降臨祭、ミカエル祭、四旬祭、収穫祭など主要な祭日、休日の元となった行事はこのころ定着した。また、農業や学校の一年も暦として確立した。逆に今とは違うところもある。太陽暦の採用後、一年の始まりの月は1月とされながら、12月25日が最初の日とされる習慣は残った。人々にとって厳しく過酷な気候の冬は、同時に地中の植物がふと姿を見せる、驚きに満ちた季節ともとらえられた。3月は気候が緩む時期というよりも、突風が吹き荒れる最も「残酷な」月であるとも表現されている。月や季節の命名の由来や祝祭日の成り立ちと変遷などはとても興味深く、文化的な違いはあるものの、我々の社会や生活にすっかり根を下ろした行事、習慣、暦を理解するうえで非常に参考になる。知的好奇心をくすぐる一冊である。