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原題 The Enablers
著者 Frank Vogl
ページ数 203
分野 社会、経済、政治、ビジネス
出版社 Rowman & Littlefield Publishers
出版日 2021/11/15
ISBN 978-1538162828
本文   世界中で、独裁政権のリーダーやそのお仲間たちが盗みを働いている。こうしたリーダーたちは泥棒政治家(クレプトクラット)と呼ばれ、着服した巨額の金を世界の金融システムを通じて裕福な西側諸国の投資対象に動かしている。西側で彼らと共謀関係にあるのが「イネーブラー」で、金融アドバイザー、法律顧問、不動産や豪華ヨットのブローカー、美術品のディーラー、オークションハウスのマネージャー、ダイアや金のトレーダー、会計監査人、コンサルティング会社などの一群だ。彼らはニューヨークやロンドンなど、世界の主要なビジネスセンターを拠点に、泥棒政治家たちに手を貸したり、そそのかしたりして、手数料を受け取ることで儲けをあげている。

彼らの活動の中には非合法のものもあるが、泥棒政治家のために行う行動の多くは合法である。もちろんそれらは公共の利益には合致せず、欧米の指導者たちも何とかしようと躍起になるが、独裁政権がせっかく手に入れた略奪品をロンダリングする方法を簡単に手放すはずがない。発展途上国の政府関係者にリベートを贈って伐採権や採掘権を手に入れたり、先進国の政治家に対しては強力なロビー活動を行い、規制を逃れようとする。ホームセンターや家具店に並ぶ木製品の30%が違法な林業行為を通じて製造されたという試算もあるくらいだ。

著者は国際組織や各国政府、研究所、大学などから手に入れた様々な資料を駆使し、泥棒政治家とイネーブラーたちがいかに私腹を肥やしているか、その手口と実態を明らかにしている。彼らの魔の手はあらゆる所に及ぶ。借款、公債、貿易、銀行間の取引、商品売買……つけ込む対象はどこにでも転がっており、ロンダリングの手口も巧妙かつ多岐にわたる。動く金額も数十億ドル、数百億ドルと巨額である。それはまさしく民主主義への挑戦、敵であると著者は指摘する。そして、そうした現状を変えるために銀行、行政、政治家、議会、非政府組織などがそれぞれ、あるいは一体となって取るべき行動を提唱している。