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原題 Soviets in Space
著者 Colin Burgess
ページ数 240
分野 宇宙、歴史、文化史
出版社 Reaktion Books
出版日 2022/08/08
ISBN 978-1789146325
本文  1957年、ソ連のスプートニクが地球を回る軌道に世界で初めて達したニュースは世界に衝撃を与えたが、わずかその1か月後に今度は生物を搭乗させた衛星の打ち上げに成功したことはさらなる波紋を呼んだ。初めての「搭乗員」はモスクワの街中をたむろしていた野良犬のうちの一匹である。ソ連の科学者たちは打ち上げカプセルに乗せる生物として、アメリカが選んだサルよりも犬のほうが適しているという結論に至ったうえで、野良犬なら打ち上げに伴う過酷な条件にも耐えられるだろうと考えたのだ。打ち上げは見事に成功したが、もともと帰還を前提としない片道飛行であったため、動物愛護の観点から西側諸国を中心に大きな非難を呼んだ。犬は結局、高温による衰弱のため、発射後1週間で死んだ。

 その後も犬による試験飛行が繰り返され、とうとう1961年、人類初の宇宙飛行士ガガーリンが登場する。2年後、テレシコワが女性として初めて宇宙へ旅立ち、さらに2年後、レオノフが初の宇宙遊泳を行った。1967年には2台のソユーズ宇宙飛行船を宇宙空間でドッキングさせ、宇宙飛行士が船外を経由して1台からもう1台へと移動した。こうした偉業の数々はアメリカのプライドを刺激し、両国は初の月面着陸に向けてしのぎを削ることになる。

 その一方で痛ましい事故も起こった。1967年にはパラシュートの故障、1971年には空気の漏れにより、搭乗員が死亡した。それでも宇宙開発への熱気は一向に冷めず、次のステップとして、長期滞在を目標とした宇宙ステーションの建設が掲げられた。そしてここに至り、とうとう米ソは手をつなぐことになる。

 今はなきソビエト連邦が、60年以上前に宇宙開発の先陣を切り、素晴らしい業績を上げた歴史を筆者は淡々とつづっている。宇宙の驚異とそれに挑む科学者たちの苦闘が伝わってくる。