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原題 Pearl
著者 Fiona Lindsay Shen
ページ数 256
分野 歴史、美術、工芸
出版社 Reaktion Books
出版日 2022/10/24
ISBN 978-1789146219
本文 18世紀イギリスを代表する大女優サラ・シドンズの胸から垂れ下がる、幾重もの真珠でできた首飾り。「人魚の涙」と称され悲哀のイメージを常に抱えてきた真珠が写し出すのは彼女の薄幸な家庭生活だけではない。真珠養殖がまだ行われていなかったその時代、完璧な白い球体は千個の牡蛎にひとつ見つかるかどうか。真珠は、旅役者からイギリス上流階級へ昇りつめたシドンズにとって、富と名声の証でもあった。そしてその真珠はどこから来たのか。七千年も前から真珠が売買されていたペルシャ湾か、カタールで免税を許されていた港、ズバラからか、コロンバスが当時より3世紀前にたどり着き黄金の代わりに真珠を見つけたカリブ海か、それとももっと近いスコットランドやアイルランドの湖川なのか。

やがて時は、無数の牡蛎や潜水作業員が必要だった天然真珠の時代から、養殖真珠の時代へと移っていく。18世紀中期に球体真珠の養殖に成功しながらもその方法を一部の人間の知識にとどめたスウェーデンの植物学者リンネ。
日本では、真珠王ミキモトが、魚売りから真珠養殖へビジネスを広げ、「人工真珠」と批判されながらも持ち前のビジネスセンスで養殖真珠を世界へ広めた。

ミキモトの真珠養殖を支えた鳥羽の海女たち。腰に一枚の木綿の布だけを纏い、ほぼ裸で海に潜り貝を集める日本の海女たちは歴史的にセクシュアリティの対象として描かれてきた。真珠の7つの大罪の一つ、「色欲」だ。真珠にまつわる闇の部分はそれだけではない。権力を誇示するために巨大な真珠を酢に溶かして飲んだクレオパトラの「傲慢」、敵国の女性が飲みこんだ真珠を取り出すためにその場で腹を割いたチンギス・カンの「憤怒」……。真珠は歴史上さまざまな物語に、ドラマチックな存在で彩りを添える。本書はそんな数々の物語と真珠の組成、神秘について語りつくす。