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原題 Mushrooms
著者 Nicholas P. Money
ページ数 224
分野 生物、神話、文化
出版社 Reaktion Books
出版日 2018/05/14
ISBN 978-1780237435
本文  人に愛されたり、恐れられたり、さげすまされたり、誤解されたりすることもあるキノコ。人類の歴史を通じて身近な存在であり続け、さらにわれわれの意識の中では特別な位置を占めている。本書には神話、キノコを生み出すもとになっている菌類の壮大な世界、私たちの好奇心をくすぐる美しい生命体との歴史的関わり、食べ物として、医療用薬物として、違法ドラッグとしてのキノコの使われ方などが紹介されている。

 キノコの研究は18世紀に当時の菌類の研究をまとめた『新しい植物類』が発行されたことをきっかけに緒についた。19世紀には菌類の分類法が確立され、培養にも成功するなど科学的な成果が数多く生まれた。その一方でキノコの独特な形状や生態は人々の想像力を掻き立て、多くの迷信や言い伝えを生むことになった。悪魔の俗称で呼ばれることもあれば、逆にお守りとされることもある。草原や森の中にまるで図ったような見事な円形にキノコが群生するフェアーリングは各地で見ることができる。美味しかったり毒になったり、幻覚を起こさせたりする。形状も様々、色鮮やかなものもあれば悪臭を発するものもあるし、暗闇で光るものもある。キノコが自然界の神秘的な部分を代表する植物とされるのも頷ける。

 一方われわれが目にしている、地表に生えている部分は、本来は子実体と呼ばれ、繁殖のための構造に過ぎない。キノコは菌類であるので、その本体は菌糸として地下に広がっている。菌糸は植物や動物の死骸を分解し土壌を肥沃にしたり、木に水分やミネラルなどの栄養分を送り込んだりする働きもある。逆に植物の生育を妨げる病気を引き起こしたり、空中に発せられた胞子がぜんそくや降雨の原因になることさえある。

 もちろんキノコも他の生物同様、気候変動や公害、森林破壊等の影響を受けており、その乱獲も頭の痛い問題だ。しかしその計画的な繁殖は人間の活動によってダメージを受けた大地を復活させるのに役立つかもしれない。菌類が汚染された土壌を浄化することは実験で証明されている。今はこの技術や知識をどう実用化に結び付けるのかが我々に与えられた課題である。